振り返り終えると、俺は店内を観察した。客はまばらに座り、混んでいるとも空いているとも言い難い状況である。
普段なら、勝ちを予想できる日であったが、問題は、最強の従業員、大場・愛川ペアをサイゼリヤ側が用意していることであった。
これでは、勝負は五分と五分、いや、それどころか負けてしまう可能性が出てきた。
さすがにサイゼリヤもこの最終戦の重みを承知しているようだ。
少し怖気付いてしまった俺は、弱気になるといつも行なっている自己暗示をかけることにした。
「サイゼリヤは、イタリアンレストラン。
俺は日本人。
これはいわば、国際大会で、日本とイタリアが戦うようなもの。
そして、ここは日本。
完全ホームのフィールド(日本で戦っているから)と観衆(周りの日本人客)。勝てる、これは勝てるぞ!」
今一度気合を入れなおした俺は、ついにオーダーすることを決意する。
今日は、シェフサラダ(サイゼリヤドレッシング)とトマトクリームスパゲティを食べる予定だ。
ちなみにシェフサラダは、一番勝てる(食べやすい)という今までの研究結果から選んだ。
勢い良く呼び出しボタンを押す。
…しかし、なかなか店員がやって来ない。
もしや、今日は愛川・大場ペアは不調か?
相手の不調を察し、俺は歓喜した。
間違いなくこれなら勝てる!
そんなことを考えていると大場さんがやってきた。
いかにも申し訳なさそうな表情を浮かべていたが、俺が怒るはずもない。
むしろ、俺は、余裕の笑みを浮かべ、先ほどまで考えていたオーダーを得意げに注文した。
オーダーを注文すると、俺は自分が浮かれていることに気づく。
この最終戦は気の抜けない一戦であり、もしかしたら、これが、俺を油断させるための愛川・大場ペアの作戦なのかもしれないのだ。
こんなことで、やすやすと引導を渡されたのでは、ここまでの激戦を経験して来た俺のメンツは丸潰れである。
俺は、負けられないということを自分の胸に刻み直し、気を引き締めた。