(このタイミングでオーダーを取りに行く席を間違うだと?くそ!ありえない。こいつ、もしや、あの二人からの差し金じゃ…)
俺「あ…。(慌てて口を拭く)…こっちじゃないと思いますよー。」
新人「あ!すいません!失礼しました!」
俺「大丈夫ですよー。気にしないでください。アハ」
新人がこちらに背を向けると、すぐにフォークを持ち直し、サラダを食べ始める。
大幅な時間のロスが生じた。心の中は、焦りが支配していた。
短い会話だったが、人間として最低限の道徳心が働き、話す前に口を拭いたのがいけなかった。
その行為により、10秒ほど多く時間をロスしてしまった。
サラダを食べる焦りから、発狂する俺。
それを横からあざ笑うかのように見ている愛川・大場。と憎き新人アルバイター。
こいつらは、明らかに手を組んでいた(と思う)。
だが、俺も負けられない。この場面で意地を見せなければならない。
俺に残された秘策は出し尽くしてしまった。(まぁ、お冷のやつだけなんだけど)
あとは、俺の一番嫌いな根性論がものを言う状況になってしまった。
しかし、どうしようもない。
気合いで乗りきるしかないのだ。
ここまで勝つ算段を練っても、サイゼリヤはそれをいとも簡単に超えてくる。
全く恐ろしい店である。
―パスタの提供時間が迫る。
―サラダが減る。
ゴールが見えた!
俺は最後の一枚をフォークで突き刺す!
今までの絶望が徐々に勝利への期待へ変わっていく。
邪魔をする者は誰もいない。なにが起きようとこれを食べきれば正真正銘の勝利。
「失礼します。トマトクリームスパゲティでございます。」
邪魔された。期待も絶望に戻った。
背後から料理を持ってきた従業員に俺は気づかなかった。
ゆっくりと従業員を見る。そこに立っていたのはさっきのバイトだった。
トン、とあっさりとテーブルに乗せられた「それ」は、俺の思っていた色とは違った。
オーダーをする前には、勝利の祝いにふさわしい『紅白の赤』色であったはずが、俺がそのとき目にしたのは、高校時代に目にした『赤点の赤』によく似ていた。
2つの皿を目の前に俺は悲しみにくれた。
教習も佳境を迎え、教習帰りの道にあるこの店に来るのは、これが最後だなと思い、挑んだ最終戦がこんな結末になると誰が予想しただろうか。
それからのことはよく覚えていないが、相手の勝利を称えるという名目で、生チョコケーキを頼んだことは覚えている。
いや、よく考えてみれば、会計の時の大場さんの敗者に向ける笑みも覚えている。
俺は悲しみに暮れたまま帰途についた。
ごめん、みんな。
俺、勝てなかった。
こんな俺を許してくれ。
なんか負けたのにすごく満足感があるよ。
また再挑戦するね!
明日朝早いから、もう寝るとします。
ネットの反応
これは意表をつかれたw
文章も読みやすいし面白かったな
無益なことに時間と頭を使う事がこんなに面白い
世の中には料理提供が早いサイザリヤもあるんだな
俺の知ってるサイゼリヤはどこも遅いから、余裕で勝てるぜ
出典:http://vippers.jp/archives/5476091.html