男「十数年間、ずっと」
男「晴れでも雨でも」
男「暑い日も寒い日も」
男「外を走っててもベッドの中で丸まってても」
男「いつもいつもずっとずっと――お前のことを考えてきたんだ」
男「う、う。う゛ぅぁ゛……」ポロポロ
男「……」
男(久々の、幼馴染の部屋だ)
男(でもあいつはいない。ベッドは空っぽだ)
男(いつもいたのに……)
男(……いや)
男(いただけだったんだ。話してただけだ。手を握りもせず。ただ自分を偽って)
男(ずっと笑っていれば、幼馴染も元気になる気がした。笑顔を分け与えられる気がした)
男「自己満足だったのかもなー」
男「……いまさら何言ってんだか」
男「ん? 机の上に、何か置いてる……?」
『男へ』
男「…………」
男「……」パサッ
『改めて手紙を書くと緊張します。ほとんど毎日顔を合わせているのに、変なものですね』
男「あ……」
『知ってました。あなたが運動会で大活躍だったって。
騎馬戦では大将を勤め、クラス対抗リレーではアンカーとして3人ほど一気に抜いてトップでゴールしたって。
写真を見せてもらいました。すごく格好良かったです。私もこの目で見たかったです。
知ってました。あなたがずっと、テスト全教科2位だって。お母さんから聞きました。
あなたが頑張ってるのも知ってました。医学部に進もうとしているのも。
私の病気を治す、と七夕の日に短冊に書いてるの、お母さんから聞きました。
本当にうれしくて、涙が出ました。ベランダ越しに笹を見ては元気をもらえました。
知ってました。本当は修学旅行のしおりなんか無かったって。あなたが修学旅行のしおりを、私のために手作りしてくれたって。
行けるはずもないのに無神経だと思ったけど、あなたが私の両親に頭を下げて許可を取り付けてくれたそうですね。