隣のおばさん「あら、お兄さん。そこで何をしてるの?」
配達員「え?いえ、僕はピザの配達に来た者です。野原さんから注文を受けたのですが…」
配達員「さっきチャイムを鳴らして、返事があったんですけど、なかなか出ていらっしゃらなくて」
隣のおばさん「…あんた、地元の人じゃないね?」
配達員「え?」
配達員「どういう事ですか?」
隣のおばさん「この家からは注文を受けても、無視しなくちゃいけないの」
配達員「あの、どうしてでしょうか?」
隣のおばさん「…この家はもう何年も前から空き家だよ」
配達員「!」
隣のおばさん「もう何年も前の話よ。ここには笑いの絶えない明るい家族が住んでいたわ」
隣のおばさん「でもご主人が借金の連帯保証人になっちゃって、それを苦に家族と心中したの」
隣のおばさん「その日の朝の事はよく覚えているわ」
隣のおばさん「久しぶりに笑い声がしたから、窓から外を覗くと、車に乗ってじゃれ合う母子が見えてね」
隣のおばさん「そして夜遅くに帰ってきた。わいわいがやがやと、楽しそうにして」
隣のおばさん「ああ、これでこの家族は大丈夫だなって思ったのよ」
隣のおばさん「そして、ピザの配達が来たわ」
隣のおばさん「でも配達員が帰る様子がないから、今みたいに外に出てきた」
隣のおばさん「そうしたら、一家が乗ってきた筈の車がなかったの」
隣のおばさん「私は一家が隠していた合鍵を使って、家に入り、テーブルの上にあった遺書を見つけた」