男「なー」
女「うん」
男「・・・お前の足さ・・・治療とかで歩けるようにならないのか?」
女「・・・ならないわ」
男「・・そっか」
女「ええ」
男「・・・」
女「・・・」
男「あー・・・ごめん」
女「別に、気にしていないわ。それに前に言ったでしょう?私は歩けないからって、困っていないわ」
男「そうだったな」
女「それに、まだ歩こうと思えば歩けるわ」
ぐっ
男「おい、無理して立ち上がろうとするな」
女「・・・でも、つかまるところがないと立ち上がれないのも確かだけど」
男「・・・オレの手につかまれよ」
女「・・・・・いいの?」
男「・・・別に構わねーよ」
がし
女「・・・」
すくっ
女の小さな手が、オレの左腕をつかんだ。
その握力は、とても弱弱しかった。
気が付くとクラゲコーナーにはオレたち以外に人は居なかった。
立ち上がった彼女は、すらりと背筋を伸ばしていた。
薄暗い水槽に囲まれて、白いワンピースが映えていた。
男「大丈夫か?」
女「ええ」
そう言うと、女はゆっくりと歩を進める。
緩く結んだ黒髪が、ふわりと揺れる。
女「あ」
男「おい!」
がし
彼女の輪郭がぶれた。
瞬間、オレは彼女の肩を後ろから抱いた。