私と彼女が出会った場所は喫茶店だった。
もちろん、その場には父もいた。
「どうもはじめまして」
私の母親になる女が頭をさげる。
明るい髪が肩からすべりおちて、甘ったるいにおいがした。
その女の見てくれは、いかにも女子大生といった感じだった。
「先生から話は聞いてます。私はカホって言います」
先生……父のことだ。私の父は大学教授をしていた。
「見てのとおり、カホはお前より年下だ。
だけどお前の母親になる女性だ。
最初は戸惑うこともあるだろうが、大丈夫。すぐ慣れるさ」
私はなにも言えなかった。
カホという女が理解できなかった。
なぜこの女は、こんなろくでもない父親と結婚したいと思うのか。
このことに関しては、今でも知らない。
そして、一生知ることもないと思う。
私の本当の母が死んだのは一年前。事故死だった。
母と父の関係は、はっきり言って最悪だった。
ふたりが家にいるだけで空気は張りつめ、肌に突き刺さった
父と母が口をきくのは、口論のときだけ。
母の死が悲しかったのはまちがいない。
だけど安心もしていた。
住人がひとり欠けたことで、私の家は平穏になったのだから。
もっとも。私の家は新しい母親によって、ゆがんでいくことになる。
喫茶店で会ってから一週間後には、カホは我が家に住むようになった。
「最近はユイちゃんの味の好みもわかってきたつもりだけど、どう?」
カホの質問に私は「うん」とだけ答えた。
カホがこの家で寝泊りするようになって一ヶ月。
このわずかな期間に彼女は、私の好みを正確に把握していた。
私の予想とは裏腹に、彼女は良妻と言っていい働きをしていた。
家事はきちんとやるし、気配りも申し分ない。
大学生活と主婦業をきちんと両立させていた。
「本当に? なんだか歯切れが悪いけど」
カホの言葉に私は首をふるだけで答えた。