二人が結婚してから一ヶ月。
私はカホの異常性が、父にまでおよんでいたことを知る。
このころの私はカホの言うことを、素直に聞いていた。
そうすることでやりすごしていた。
この日は仕事がやすみで夜遅くに帰宅した。
『なんだカホ。俺がなにかしたのか?』
ブーツを脱ごうとしたときだった。
父の声がリビングの扉越しに聞こえてきて、私は手を止めた。
『なにを怒っているの?』
カホの声は父のそれとは対照的に淡々としていた。
『お前こそなんなんだ? 俺がなにかしたのか?』
『言ってる意味がわからないよ。
お風呂入ったら、って言っただけじゃない』
そこでふたりの会話がとまる。
父がリビングから出てきた。
父は私に気づいたが、なにも言わずに二階へあがっていった。
「おかえり、ユイちゃん」
カホがリビングから出てくる。
「なにかあの人とあったの?」
「べつになにもないよ?」
「あの人が声を荒らげてるのなんて、見たことないんだけど」
きっと疲れてるんだよ。
それだけ言うとカホはリビングに引っこんだ。