声にならない声が喉から漏れ出た。
私はリビングを飛び出して自分の部屋へと逃げた。
扉を勢いよく閉めて、鍵をかけた。
布団へと潜りこんで耳を塞ぐ。
「お母さん……!」
私は祈るようにそうつぶやいた。
扉をノックする音が、耳を塞いでいるのにも関わらず聞こえた。
『使わないコンセントは抜いて。そう言ったよね?』
あの女の声が扉越しに私を追い詰める。
目をきつく閉じる。
なのにまぶたの裏では鮮明に、カホが微笑んでいる。
『使わないコンセントは抜いて。そう言ったよね?』
「……はい。ごめんなさい」
私は声をしぼり出した。
扉のむこうでカホが満足そうに笑った気がした。
『ユイちゃんは本当はできる子だもんね』カホは言う。
『『お母さん』がどうこう言わなくても、一人でなんでもできるもんね』
はい、と私は反射的に頷く。
『今度は同じことを『お母さん』から注意されちゃダメだよ』
カホが扉からはなれていくのがわかる。
安堵のため息がこぼれた。
それから二ヶ月が経って、カホと父は入籍した。
式はあげなかった。
私は家のことについて考えるのをやめた。
そして。
カホの異常は父にまでおよぶことになる。