「イェ~~!」
反射的に二三歩下がる俺たち。
また間合いを詰めて「イエ~~!」
俺は、とっさに話しかけた青年の上着をぎゅっと掴んだ。
「楽しんでるねぇ~!」
「どっから来たのお~!」
「君たち、ちょーいけてる~!」
現実と噛み合わない台詞を大声で吐く男の目を見て、何となく意味が、分かった。
(頼む、話を合わせてくれ)
俺が話しかけた青年は、ダサいけど凄く機転が効く奴で、
のらりくらりと、かつ効果的にマイクに向かっていかに我々が、盛り上がってるかを話し始めた。
マイク男は、調子よく話しながらも青年がナイスな受け答えをすると親指を突き立ててた。
「岐阜から来たんすケド、東京ヤバいっす!」
「もー友達作っちゃったんだ!俺らも嬉しいよ!」
「憧れの(某施設)でイベントやっちゃうなんて、ちょーやばいっすね!」
「だろ!?ここでイベントなんてふつー考えないよねー!」
「さすがっす!もうみんな踊りまくってますよ!」
現実には、倉庫の床に座り込んで焼きそばを吸い込むダサダサ軍団にさっきの黒人セキュリティが「頼むから座らないで、踊って」と頭を下げているのだが。
最終的にわかったことは、
このイベントはとあるfm局が、東京に出てきたばかりの若者をターゲットにした新番組を始めるために催したものであった事だった。
ラジオなら確かに映像は伝わらないから、どんだけ白けてても話し手が頑張れば聞き手が勝手に想像するだろう。
一応大音量で流れてるズンドコ言ってるそれっぽい曲は会場の白けを打ち消し、嘘八百の受け答えはさぞ夢を膨らませたろう。
地下倉庫であっても、有名なビルであることには変わりはない。
よく考えるなあ~と思ったけど、ラジオを作る人も大変なんだな、、と思い知らされた。
マイク男は、番組のメインDJだった。
一通り収録が終わったあと、
「さっきはごめんね。新入生じゃないのに来てくれてありがとね。気が向いたら番組聴いてね。」
って俺にだけ缶ビールくれた。