銀色の筒を指にはめ構える――何も知らない現代人が見たら意味不明な行動。
普通なら油断してやられていただろう。
しかしジャイアンは知っていた。
ジャイアン(あれは……空気ピストル?)
未来のひみつ道具、空気ピストル。
「バン」という声に反応して空気の塊を射出する。射程距離は10メートル前後。
ジャイアンは瞬間的に身をよじるとテーブルの上の大理石の灰皿を手に取る。
黒服2「くらえ!!バ……」
「バン」と言い終えるより早く、ジャイアンがアンダースローで放った大理石の灰皿が
空気ピストルを黒服の指から弾き飛ばしていた。指ごと粉砕していたかもしれない。
元・ジャイアンズピッチャーの豪速球は健在だった。
黒服2「がぁぁぁっ!!!指が!!指がやられた!!」
黒服1「くそ、大丈夫か!仕方ない、逃げるぞ!!」
黒服二人が廊下へと逃げていく。
ジャイアン「逃がすかよ!!」
再び投げた灰皿が今度は別の黒服の背中にヒットする。
黒服が何かを落とした。
黒服1「がぁ!!……あ、待て!!ビッグライトを落とした!!」
黒服2「拾ってる暇はねぇ!どうせバッテリー切れだ、放っておけ」
そのまま黒服は廊下を曲がっていく。
ジャイアンがあとを追いかけ廊下を曲がると、男たちの姿はなかった。
代わりに、ピンク色のドアが消えていくの見えた。
のび太「う……ジャイアン」
ジャイアン「のび太!!おまえ大丈夫か!!」
のび太「ああ、僕は蹴られただけだから……あいつらは?」
ジャイアン「逃げたよ……どこでもドアでな」
のび太「なんだって!? ……いや、それより今はジャイ子ちゃんの手当てが先だ」
ジャイアン「ジャイ子!!ジャイ子は助かるのか!!」
のび太「わき腹だからたぶん致命傷ではないと思う。僕は専門じゃないけど……止血し
て急いで病院に連れて行けば……」
一方その頃出木杉はというと、しずかとの間に微妙な空気を感じつつあった。
小学校の頃からしずかとはよく遊んだし、彼女からの好意も少なからず感じる。
間違 いなくいける、そう思うのに何故のび太に遠慮してしまうのだろう。
別にのび太としずかは付き合ってるわけではないはずだ。なのに、どうして?
出木杉(これが正しい未来ではないからか? やはりしずかちゃんはのび太くんと結ばれ
るはずだからか……? いや、そんなの僕らしくない。それじゃまるで運命を認
めるようなものじゃないか……)
自分自身が何を願っているのかわからない。
しずかの気持ちがわからない。
何となく、逃げ出したいような気持ちに駆られた。