しかし俺とのメールが彼女にとっても支えになるにつれて、お金をとっているという事実が
彼女を苦しめた。そして月に2万ではメールの通信料を差し引けば、生活費を補うのに
十分ではなかった。毎月貯金の残高は減っていき、自分の東京での生活は長くないことを
彼女は自覚せざるを得なかった。
その内、メールの中に「好き」だとか「愛してる」といった単語は入りだし、
びっくりしたこと。本気なのかどうか驚いたこと。そして段々と俺に対して
恋愛感情を抱くようになっていったことが書いてあった。
「一回接客したことがあるだけで、メールしかしたことないのにおかしいでしょ?」
俺が感じていたことと、まったく同じことが書かれていた。
そして一度は俺と直接会って話したいと思っていたこと。お金をとるのなんてやめて
一から人間関係を作りたいと思っていたこと。でもそれにはもう時間が足りないことが
書かれていた。
それでもどうしても会いたくて、バイト先の送別会の会った夜、酔ったはずみでとうとう
俺に電話をしてしまったこと。俺はすぐに迎えに来てくれたこと。タクシーの中で
とても幸せだったこと。
会えたことは嬉しかったけれど、週があければすぐに引越しで、幸せな気持ちは長く
続かなかったこと。そのせいで、次の日は一緒にいても辛かったこと。
彼女は上京するときに、地元に彼氏を残してきたそうで、遠距離恋愛で
つらい思いをしたことが書かれていた。半年で元彼との遠距離恋愛は終わり、
遠距離恋愛が長続きすることはとても大変なことなのだという彼女の持論が
書かれていた。
ましてやメールでしか人間関係を築いていない自分たちには絶対に無理だと。
そしてメールの中だけで続けていく恋愛は不毛だし、お互いにとってプラスに
ならないと。
彼女がきっぱりと俺との接触を絶ったのは、こういう理由だった。
遠距離恋愛など経験したことのない俺には、反論のしようもなく、ただグッタリと
ベッドの上に倒れこむしかなかった。手紙の文面から彼女の意思の強さが
伝わってきて、説得は困難だとはっきりとわかった。
それでもすんなりと納得がいく訳ではなかった。確かに彼女の言うとおりだ。
こんな状況の俺たちが遠距離恋愛で上手くいくとも思えない。めったに会うこともない
メールがほとんどの関係で、ちゃんとした愛が育つとも思えない。
