俺はその場で便箋を破いて手紙を読み出しそうな勢いだったが、「家でゆっくり
読みなよ」との川嶋さんの言葉で少し冷静さを取り戻し、その勧めに従うことに
した。
川嶋さんには何度も何度もお礼を言い、俺は家路を急いだ。期待と不安が
頭のなかで交錯し続け、晩飯も買わずにアパートへと直行した。
部屋に入ると急いでハサミを探した。俺は手先が不器用な方なので、便箋を
手で破くとしょっちゅう中身の手紙まで破いてしまうのだ。それにしてもどうして
ハサミというやつは、こう必要な時に限って見つからないのだろう。
5分ほど散らかった部屋を家捜しし、俺はようやく見つけたハサミで便箋をあけた。
久しぶりに受け取る彼女からのメッセージ。
手紙の内容は概ねこんな内容だった。
まず、俺がバイト先を訪ねて驚いたこと。そしてそんなに俺を狼狽させるほど
唐突な別れを切り出してしまい、それについてのお詫び。
その次には川嶋さんからすでに聞いていた、実家に帰らなければならなくなった
事情について書いてあった。そしてたぶん、地元で就職することになるということ。
そしてようやく俺とのメールを止めることになった理由について書いてあった。
メールは元々、足りない生活費を補うために始めたこと。初めの内は、なんとか
俺のことを楽しませようと努力していたこと、結果、自分はあまり楽しくなかったこと。
メールを続けていくうちに、彼女にとって、俺とのメールが生活の一部になりだしたこと。
そして段々と俺からのメールを待ち遠しく思うようになっていったこと。
相談にのってあげられて嬉しかったこと。話を聞いてもらって感謝したこと。時には
仕事がきつそうな時に、俺のことを本気で心配したこと。
そんな彼女の側から見た気持ちの移り変わりが書いてあった。
