【※やり直し※】10年前に戻って人生をやり直すことに・・・僕は10年分の巻き戻しを、まったく無意味にしてみた。

それでも僕の目には、寒さに震える彼女が、
なんだか寂しそうに見えて――隣に誰か、
温かい存在を必要としているように見えたんだ。

いやあ、実に自分に都合のいい想像だよ。
それでも僕は幸せだった。だってさ、
自分が必要とされている気がしたんだ。

あの子にはやっぱり僕が必要なんだって、
幸せな勘違いをすることができたんだ。

生きる気力をすっかり失っていた僕だったけど、
かつての幸せな日々を取り戻したくて、
彼女と同じ大学へ行くために猛勉強した。

おかげで僕の学力は最後まで伸び続けて、
一周目で通っていた大学に、無事合格できた。
悪くない気分だったな。奇跡みたいだったよ。

そこまではいい。そこまでは良かったんだよ。

入学式が終わって、僕は彼女の姿を捜し回って、
ついに見つけ出したわけなんだけど、
むしろ、そっからが問題なんだ。

体温が三度くらい下がった気がしたね。

かつての恋人が、知らない男と腕を組んで歩いている。
それだけなら、まだ我慢することができたかもしれない。

でも、その男と言うのが、どこからどう見ても、
一周目の僕にそっくりだとなると、さすがに話は違ってくる。

僕のかつての恋人の隣を歩いている男は、
背格好、仕草、声、喋り方、表情の作り方、
どこをとっても、一周目の僕と瓜二つなんだ。

ドッペルゲンガー、という言葉が僕の頭に浮かんだ。

二周目の僕は、一周目の僕と比べると、
身長は四センチ小さかったし、体重は十キロ軽く、
比べ物にならないくらい表情が暗くなっていた。

仮に一周目の人生を正確に再現できていたら、きっと、
目の前にいるその男みたいになれていたんだと思う。

どうりで僕が彼女と付き合えなかったわけだよ。
二周目では、僕の代役がいたんだ。

誰かに対して敵意を抱いたのは、久しぶりだったね。

『おい、違うだろ、それは僕の役だろうが!』って、
狂ったように頭の中で言いつづけていたと思う。

それからの数か月は本当に驚きっぱなしだったよ、
なにせ、かつての僕の大学生活というものを、
僕の分身が次々と正確に再現してみせたんだから。

それにしても、客観的に見ることで、あらためて、
一周目の僕って幸せだったんだなあって思ったよ。

そのくせ嫌味もないし、人に親切だし。

秋頃になって、僕の頭の中で何かが切れた。

その頃になると、僕はほぼ引きこもりになっていて、
ほとんど大学には行かず、一日中安酒を飲んで、
ろくに食事もとらず、寝てばかりいたんだ。

このままじゃ発狂すると思ったね。
何をしていても、例のドッペルゲンガーと、
今の自分とを比較してしまうんだ。

そうすると、それまで当たり前だったことさえ、
急に耐えられなくなっちゃうんだよ。

変なところで、僕は冷静だったんだよ。
今の自分が、彼女にふさわしい男ではなくて、
分身に勝てないことは、重々承知していたんだ。

でも、その上で考えたやり方と言うのは、
とても正気の沙汰とは思えなかったね。

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