先輩「バスが来ましたね―――では、失礼します」
男「待ってくれ」
先輩「なんですか?」
男「俺は……彼女に相応しくないって思うんだ……君みたいなカッコいい同年代の男のほうが」
先輩「―――おい」
男「ぐ……!?な、胸倉をつかむ……ぐぇ?!」
先輩「それ以上、俺を馬鹿にしてみろ。殴るぞ」
男「ぐ……だが……」
先輩「同じ学校、同じ部活……あんたよりも時間はいっぱいあった」
男「……!?」
先輩「それでも負けたんだ……今更……どうやって彼女の心を向けさせられるんですか……」
男「あ……」
先輩「教えてくださいよ!!どうやったら、彼女は俺に振り向いてくれるんですか!?」
男「……それは」
先輩「失礼しました……。―――でも、彼女は貴方を待っている。だから、貴方はここで彼女を待つべきです」
男「分かった……待つよ。待って、どうするかは分からないけど」
先輩「……大丈夫ですよ」
男「え?」
先輩「何もしなくても、勝手に言葉はでてきます」
男「……」
先輩「深く考えないほうがいいと思います」
男「そ、そうなのか?」
先輩「ひょっとして……彼女、できたことないんですか?」
男「え!?い、いや……学生のときに一人だけいたしなー」
先輩「はいはい」
男(見透かされた!?)
先輩「貴方はいい人だ。そして、彼女も優しい。だから、何もしなくても自然と上手くいきます」
男「そ、そうか?」
先輩「ええ。隣にいるだけで大丈夫ですよ。二人なら。……それでは。コーヒー、ごちそうさまでした」
男「あ、ああ……」
―――午後6時 駅前 バス停
少女(すっかり暗くなっちゃった……)
少女(明日からバスの時間変えなきゃ……)
少女(もう、あの人に会っちゃ駄目……)
少女(もう……会えない……やだな……)
少女「ぐす……えと……帰りのバスは……」
男「―――あの5分」
少女「え……?」
男「あと……5分だ」
少女「あ……あ……」
男「もう次が最終だ。これに乗れないと、帰れないだろ?」
少女「は、はい……」
男「ほら、来たよ。乗ろう」
少女「……」
運転手「……・お忘れ物のないようにお降りください。次の発車は6時5分です」
―――バス 車内
運転手「お乗りの際は足元にご注意ください」
男「……俺は後ろに座るけど」
少女「わ、たしは……前に座ります」
男「そうか……」
少女(何を話せばいいかわからない……)
男(どうやって話しかければいいのかわからない……)
運転手「発車します。ご注意ください」
少女(だって……私は……)
男(どうしたら……)
少女「はぁ……」
男「……」
運転手「……」
運転手「次は、高校前です―――」
少女(もうすぐ……着いちゃうな)
男(あと20分ぐらいか……)
少女(はぁ……もう……どうして待ってくれてたの……私は……別の人と……)
男(どうしてなにも言ってくれないんだ……俺は……君のことを……)
運転手「あの」
少女「え?」
運転手「そろそろ、席を移動してもらえませんか?」
少女「え?どうしてですか?」
運転手「その席、ちょっとガタがきててちょっと危ないんですよ」
少女「そ、そうなんですか?」
運転手「ええ。すいません。できれば、中ほどの席に移動してください」
少女「わ、わかりました」
男(あれ、こんなところで立ち上がって……どうするんだ?確か、そろそろ……)
運転手「―――ここから道路が荒れているため、少し揺れます。お立ち上がるお客さまを支えてください。お願いいたします」
男「え!?」
少女「―――きゃぁ!?」
男「危ない!!!」
少女「―――あ」
男「だ、いじょうぶ……?」
少女「は、はい……すいません……」
運転手「安全のため、どうかお座りください」
男「す、座ろうか……」
少女「は、はい……」