「どういうこと?」
「……お遊戯会、来なかったんだぞ。父ちゃんは接待ゴルフ、母ちゃんはひまが熱出して看病……風間くんも、ねねちゃんも、まさおくんも、みんな見に来ていたのに……オラだけ……」
「……そうだったの……」
「でも父ちゃんも母ちゃんも、一緒のことしか言わなかったんだぞ。仕事だから仕方ない。ひまが熱出したから仕方ない。
……オラが聞きたかったのは……」
それから先の言葉はなく、しんちゃんは黙り込んでしまった。言いたいこと。だけど、それを口にしたくはない。そんな感じなのだろうか。
プライドだとか意地だとか、そんな単純なものじゃないんだと思う。
もっと色々な感情が頭の中で絡み合い、混ざり合って、しんちゃんの口を閉ざしているのだろう。
「……しんちゃん、寂しかったんだね……」
香澄さんは、優しくそう呟く。
「違うもーん。そんなんじゃないもーん。……そんなんじゃ、ないけど……」
少し、強がっているように見えた。
すると香澄さんは、クスリと笑う。
「そういうことにしておくわね。……でも、きっとお父さん達、心配してるわよ?」
「……そんなことないぞ」
「してるわよ。親の気持ちってさ、大人にならないと分かりにくいのよね。私のお母さんもね、言ってたんだ」
「なんて?」
「結婚に反対された時は、物凄くお爺ちゃんを恨んでたんだって。こんな親の元に生まれた自分が悲しいとか、そんなことを思ってたって。
……でも、結婚して、私が生まれて、あの時のお爺ちゃんの気持ちに、少しだけ触れることが出来たとも言ってた。
心配でしょうがなくて、口出ししないと気が済まなくて……そして、とても愛おしくて……。それはね、親になって初めて分かることなのかもしれない。
現に私はまだ結婚してないし、子供を思う親の気持ち――お母さんやお爺ちゃんの気持ちは、たぶんよく分かってないんだと思う」
「……」
「それはしんちゃんも同じなんじゃない?しんちゃんのお父さん、お母さんが何を思いながら接待したり看病してたのか……それは、きっと分かってなかったと思う。
だってしんちゃんは親じゃないし、まだ子供じゃない。だから、それを聞く前から“こうに決まってる”って決めつけるのは、ちょっと早いと思うよ」
「……お姉さん……」