「――お」
「あそこか……」
僕らが見つめる先には、懐かしい家があった。白い壁、赤い屋根……少しだけ開けた窓から、懐かしい匂いがする。
そしてその家の前には、一つの影が立っていた。
よく見知った顔――ひろしさんだった。
「――ッ!みさえ!来たぞ!」
ひろしさんはお爺さんの車に気付くなり、家の中に向かって叫ぶ。お爺さんの車のナンバーは他県のもの……見たらすぐわかるだろう。
家からひまわりちゃんを抱きかかえたみさえさんが出て来た。心なしか、目が赤く腫れているようにも見える。
ひろしさん、みさえさん、そしてひまわりちゃんが見つめる中、僕らを乗せた軽ワゴンが止まる。
車のヘッドライトが、ひろしさん達の姿をはっきりと映し出した。
「……父ちゃん、母ちゃん……」
不安げに、しんちゃんは呟く。そんな彼に、お爺さんは優しく声をかけた。
「……ほれ。行って来い坊主」
「……うん」
しんちゃんは車を降りる。そして車の前に移動すると、車の光を背に受けた彼の足元からは、影が伸びていた。
その影は、彼自身よりも一足早く、ひろしさん達の元に辿り着いていた。
「……」
「……」
しばらく、しんちゃんとひろしさん達は見つめ合ったまま動かなかった。
それでも、しんちゃんはゆっくりと口を開いた。
「……父ちゃん、母ちゃん……」
「……しんのすけ……」
「―――」
ひろしさんの声を聞いたのを皮切りに、しんちゃんはゆっくりと足を踏み出す。
少しずつ前に進み、そして徐々に速度を増す。
「――父ちゃん!母ちゃん!」
最後には前のめりに走りながら、彼はひろしさん達の元へと駆け寄っていた。
そして、間もなくひろしさんに手が届く―――
「――んの!バッカヤロオオオ!!」
――パァーン!!
突然、車のエンジン音しか聞こえない周囲に、頬を平手打ちする音が響き渡った。
「―――」
「―――」
車のライトが照らす先では、顔を横に向けたまま固まるしんちゃんと、手を思い切り振り抜いたひろしさんが映っていた。
「……父ちゃん……」
しんちゃんは赤色に染まった左頬を手で押さえながら、ゆっくりとひろしさんの方を振り返る。
これまで、何度もゲンコツをされることはあった。でもその時の平手は、僕自身、見たこともないものだった。
ひろしさんは手を下げ、握り締めていた。そしてその手は、震えていた。
「……今まで……今まで何をしてたんだ!」
「お、オラ……」