それから数時間後、しんちゃんは車に乗っていた。少し型の古い軽ワゴン車はガタガタと揺れながら、黄昏の色に染まる高速道路を走る。
運転するのはお爺さん。そして、お婆さんは助手席に座る。僕としんちゃんは後部座席に座り、外の景色を見ていた。
少し前に見た光景。でも、あの頃とは少し違うようにも見える。
通り過ぎる光はやけに眩しく、車の車の音は前よりもうるさくない。
事前にお爺さんはしんちゃんの家に電話していた。
電話口のみさえさんはかなり驚いていたようで、お爺さんのところまで迎えに行くと言っていたが、それを断わりこうしてしんちゃんの家まで向かっていた。
しばらくの長旅になるそうで、時間が緩やかに進んでいるように感じた。
「――坊主、不安か?」
ふと、お爺さんは前を向いたまま、後ろのしんちゃんに声をかける。
「……別に」
「強がるな。しばらく家を離れていたからな。当然、父ちゃんも母ちゃんも心配しとるやろ。早う帰ってやらんとな」
「……」
「しばらく家を空けたからな。色々不安なのは分かる。ばってんな、それでもお前は家に帰らないかん。お前が帰るべき家は、そこやしな」
「……うん」
「なあに、心配いらんさ。親御さんの気持ちは、俺にも分かる。俺も一応、親やしな」
「……じゃあ、お爺さんもお姉さんの家に行くの?」
「え?あ、ああ……」
「ホント、子供は正直やなぁ……」
しんちゃんとお爺さんのやり取りに、お婆さんはそう呟いていた。
車が春日部に着いた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
お爺さんも、ここまで運転するのも疲れたはずだ。それでもお爺さんは、絶えずしんちゃんに話しかけながら運転していた。
たぶん、彼の不安を少しでも抑えようとしていたのかもしれない。
窓の外を覗けば、見慣れた風景が広がる。
公園、道路、道端の自動販売機……これまで何度も見て来た道。これまで何度もしんちゃんと歩いた道。
過ぎゆく街並みは、僕らが帰ってきたことを実感させる。
「……坊主、もうすぐやぞ」
「……うん」
しんちゃんは、消えそうな声で言葉を返す。不安、安心……色んな感情が、きっとあるんだと思う。
(――あ。しんちゃん!)
俯く彼に声をかける。
「もう……うるさいぞ、シロ……」
(あれ見て!あれ!)
必死に前方を見るよう促すと、しんちゃんはようやく視線を上げた。