――お兄ちゃんは、いつまでもお兄ちゃんだからね――
――しんのすけ、ひまわりちゃんは、必ず幸せにするよ。……男として、親友として、お前に約束する―――
空港での別れ際、二人はそう言っていた。
正直、何も心配はしていない。
あの二人なら、きっと幸せになれる……その確信が、なぜかオラにはあった。二人をよく知るオラだからこそ、そう思えた。
「……ふう。ちょっと休憩……」
家を片付けていたオラは、大きく体を伸ばす。
ひまわりの荷物は、ほとんど送っていた。彼女に部屋だった場所には、机とベッドしか残っていない。
「……」
少し、家の中を歩いて回る。
色々な思い出が詰まった、慣れ親しんだ家。
オラがいて、ひまわりがいて、父ちゃん、母ちゃん、シロがいた家……
(……こんなに、広かったっけ……)
たった一人の主を持つ家は、とても広く思えた。でもそれ以上に、とても静かだった。
(……ん?)
……ふと、柱の隅に傷を見つけた。柱の腰の位置ほどに付いた、古びた傷……
そして、昔のことを思い出した。
『――お兄ちゃん!ひま、大きくなったよ!』
『お?どれどれ……なんだ、まだ小さいじゃないか……』
『そんなことないもん!ひま、大きくなってるもん!もうすぐ大人だもん!』
『そうか?なら、記録でも付けておくか……』
『記録?』
『そうそう。……この傷が、今のひまわりの身長。これを見下ろせるくらいになったら、きっとひまわりは、素敵な大人になってるだろうな』
『素敵な大人?』
『ひまわりの名前の通り、色んな人を、元気にさせる人だよ。きっとひまわりなら、みんなを幸せに出来るさ』
『……よく、分かんない……』
『ハハハ、難しかったかな。まあ、大人になったら分かるよ―――』
(……すっかり、忘れていたな……)
その傷は、すっかり見下ろせる位置になっていた。
オラは、大人になったのだろうか。ひまわりはどうだろう……
でも、彼女との想い出を振り返ると、自然と笑顔になれる。だったら彼女は、きっと、あの日話していた通りの大人になれたんだと思う。
――そしてそれは、オラが生涯、誇りに思えることだと思う。
(……父ちゃん、母ちゃん。これで、良かったんだよな。オラ、頑張ったよな。最後まで、ひまわりは笑顔だったよ。これなら、褒めてくれるよな……)
天井を見上げ、心の中で父ちゃん達に報告する。
大きく息を吸い込み、息を深く吐く。
胸の中は、どこか穴が空いているような気分だった。それでも、それ以上に暖かい。
「――よし!掃除を始めるかな!」
何かを奮い立たせるように、少し声を強く出す。そして、掃除に戻った。
