家に帰る足取りは、とても重かった。
歩き慣れたはずの道は、とても遠く感じた。
その日は、月明かりが出ていて、道路にオラの影を作っていた。
……でも、その夜は、どこまでも深い闇色に染まっている気がした。
「……」
家には、ひまわりが待っている。
オラの帰りを、待っている。
……それが、途方もなく足を重くしていた。
「……ただいま……」
家に帰りついてしまったオラは、静かに呟く。
すると家の奥から、車椅子の音が聞こえてきた。
……そして、いつもと変わらない様子のひまわりが、玄関にやって来た。
「お兄ちゃん、おかえり」
「あ、ああ……ただいま……」
「今日ね、ご飯作ってみたんだ。車椅子で作るのって大変だったよ」
「そ、そうか……ごめん、先にお風呂入るから……」
「……?う、うん……」
不思議そうな顔をする彼女を尻目に、オラは風呂に入った。
お湯に浸かりながら、ぼんやりと風間くんの言葉を思い出す。
目の前に立ち込める湯気と同じだった。
浮かんでは消え、消えては浮かび……壊れたレコードのように、ただ彼の言葉を繰り返していた。