「……チーター、結婚するんだ……」
オラはしばらく、体に走った衝撃に身動きが取れなくなっていた。
「河村先生の奥さんってね、すごく美人なんだよ?まさに、お似合いのカップルって感じなの」
ねねちゃんは、笑顔でそう話す。
(まあ、あれだけイケメンなら、そうだろうけど……って、今はそうじゃない!!)
チーターは結婚する。それをねねちゃんは知っているようだ。
そして彼女は、むしろ祝福しているように見える。
……まさかねねちゃん、今の関係を崩したくないってのは、こういう事情があったからなのか?
だとするなら、彼女はどれだけ茨の道を進むのだろうか……
感傷に耽っていると、ふと、後ろから声がかかった。
「――しんちゃん。ねねちゃん」
どこかで聞いたことのある、緩い声。その声の主は……
後ろを振り返ると、そこにはぼーちゃんがいた。
「あれ?ぼーちゃん、今帰り?」
「うん。二人は、何してるの?」
「しんちゃん、今日、フタバ幼稚園に遊びに来てたのよ。……ねえぼーちゃん、せっかくだし、三人で帰りましょう」
「うん。帰ろう」
ぼーちゃんは、笑顔で返事を返す。
そしてぼーちゃんとねねちゃんは、オラの前を歩き始めた。
楽しそうに会話をする二人。
ぼーちゃんはさることながら、ねねちゃんの笑顔には、どこか見覚えがあった。
――幸せそうに、朗らかに笑うその笑顔……それは、確かさっき幼稚園で見た……
(………………まさか……)
……オラは、いつから錯覚していたのだろうか。
ねねちゃんが気になっているのが、まさおくんかチーターである、と……
(………まさか……ねねちゃんが言ってた、“気になる人”って………)
オラの中で、バラバラのパズルのピースが、一つになった。
そんなオラの前を、ねねちゃんとぼーちゃんは並んで歩く。とても、幸せそうに……
……さすがのオラも、まさおくんに同情するしかなかった。
確実に彼は今、かすかべ一の、不幸な青年であるのだから……