【クレヨンしんちゃん】しんのすけ「……父ちゃん、母ちゃん。ひまわりは今日も元気です。――行ってきます」誰も知らない22年後・・・

「……不器用、なんですね」

「……そうですか?」

「はい。あなたは、とても不器用です。……彼女と、一緒ですよ」

オラがあいちゃんに視線を送ると、男性も彼女を覗き込んだ。

「……彼女も、本当は両親に甘えたいんですよ。ですが、そのやり方が、よく分からなかったようです。
わからないから、家出まがいのことまでしちゃってるんです」

「ほほう……家出、ですか……」

「はい。……ただ、彼女は、知ってほしいんだと思います。
自分の気持ちを、想いを、葛藤を、苦悩を、聞いてほしいんだと思います。
ですが、忙しい両親に気を使うあまり、それが上手く伝えることが出来てないんです。
……ほら、あなたに似てるでしょ?あなたもきっと、そうなんじゃないんですか?」

「……さあ、私には分かりません……」

「分からないなら、一度娘さんと話してみてください。夕ご飯でも食べながら。
オラも、妹と一緒にご飯を食べるんです。そして、色んな事を話すんです。
買い物での出来事、仕事での出来事、テレビの内容……くだらないことも多いですが、そうやって話しながらご飯を食べるの、けっこう、いいもんですよ」

「……」

「……あなたなら、きっと娘さんと上手くやれますよ。だってあなたからは、娘さんへの愛が、しっかりと見えてますから。
必要なのは、ほんのちょっとしたきっかけなんです。ただ、それだけなんです」

「……そのきっかけが、よく分からないんですけどね……」

「そんなの簡単ですよ。
――ただその人の帰りを待ってればいいんです。そして、帰ってきたらこう言うんです。
『おかえりなさい』、と……」

「………」

「あなたの娘さんは、もうすぐ家に帰ります。
――帰りを、待っていてあげてください」

「……そうですね。そうします」

そして老人は、徐に席を立った。

老人は、そのままドアの方に歩く。そしてオラに背を向けたまま、再び話しかけて来た。

「……もし娘が、あなたのような人と巡り合っているとするなら、それはきっと、娘にとって最も幸運なことかもしれませんね」

「……違いますよ。最も幸運なのは、あなたのような、娘さんを心から想っている親の元に生まれたこと、ですよ……」

「ハハハ……恐縮です……」

そして電車は、次の駅に止まる。
ドアが開くと同時に、老人は電車を降りる。そしてホームから、最後に声をかけてきた。

「……その女性を、頼みましたよ」

「……はい。ちゃんと、家に送り届けます」

最後に老人が一礼すると、ドアは閉まり、電車は駅を離れはじめた。

しばらく走ったところで、オラはあいちゃんを見る。
彼女は、依然としてオラの肩に顔を埋めたまま、動かなかった。

そんな彼女に、囁きかけるように、声をかけた。

「……あいちゃん、キミは、ちゃんと愛されているよ。そしてその人は、キミを待ってくれているよ」

「………」

「……だから、家に帰ろう。キミを待つ人のところへ。キミがいるべき場所へ。
オラも、一緒に行くからさ」

「……はい……はい……」

あいちゃんの口から、微かに声が漏れる。
電車の音に掻き消されて、よく聞こえない。……ただ、その声は、僅かに震えていた。

そして隠すかのように俯いた彼女の顔からは、雫が垂れ落ちる。
ポタリ……ポタリ……と、降り積もった雪が春の訪れと共に溶け出すように、零れていた。

それは、きっと暖かいものだ。そしてきっと、彼女の心から溢れ出たものだろう。

そんなオラ達を乗せた電車は、一定の速度で走り続ける。
……まもなく電車は、春日部に到着する頃だ。

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