その後あいちゃんは家に帰って行った。
入り口の立派過ぎる門のところには、大量のメイドさんと、優しそうな笑みを浮かべる女性、それと、初老の男性……
二人の姿を見た瞬間、あいちゃんは駆け寄り、男性の胸に飛び込んで泣いていた。
そんな彼女を、両親は優しく抱擁する。
……その姿を見て、少しだけ羨ましかった。それでも、オラの心は温かくなっていた。
家族のひと時に、部外者のオラがいつまでもいるのは無粋。
オラは静かに、一人家に帰った。
そして次の仕事の日……事件は、起こった。
「――おはようございます……」
仕事場に出勤したオラだったが、さすがに前日海で遊びまくったせいか、体中が痛い。
オラももう歳なのかもしれない。少しは体を労わるようにしなければ。
それはそうと、さっきから人に見られまくっている。
エントランスホールにいる従業員は、皆がオラを見るなり隣に立つ人とひそひそ話を始める。
その光景は、正直いいものではない。
何か顔にでもついているのだろうか……はたまた、間違えて寝間着でも着て来たのだろうか……
少しだけ背中を丸めたオラは、足早にあいちゃんの事務室に向かった。
途中通る廊下の掲示板には、至る所で人だかりが出来ていた。何があったのかは気になったが、とにかく人が来ないあの部屋を目指した。
「――おはよう、あいちゃん」
入り口を開けて、あいちゃんに挨拶をする。
オラに気付いたあいちゃんは、座っていた席から立ち上がり、オラの元へ駆け寄って来た。
「――おはようございます、“あなた”」
「うん、おはよう……って、あなた?」
「はい。あなた、です」
ニッコリと微笑みを向けるあいちゃん。しかして、なぜ急にあなたと……
「ええと……なんでオラを“あなた”って言うの?」
「はい。……これです」
「これ?」
あいちゃんは、一枚の紙を手渡してきた。
「……………あいちゃん、これって……」