そこに書いてある文字を、オラは4度見ほどしてみた。しかし、何度見ても同じことが書いてあった。
『祝!酢乙女あい、婚約!』
「……あいちゃん、結婚するんだ……」
「はい」
「へえ~。……誰と?」
「それはもちろん、しんのすけさんとです」
「……ああ、なるほど。やっぱりそうか……」
それは予想していた通りの返答であった。何しろ、しっかりと書いてある。
――『お相手は、酢乙女グループ特別顧問、野原しんのすけ』と……
「ああ、なるほど。オラがあいちゃんと婚約ね。
オラが…あいちゃんと…………って、ええええええええええええええええええ!!??」
朝一の事務室では、オラの叫び声が響いていた。
「ちょっとあいちゃん!これ、どういうこと!?」
オラはあいちゃんに詰め寄る。
「どうもこうも、そういうことです」
あいちゃんは、相変わらずにっこりと笑っていた。
「いやいや…いやいやいやいや!なんで急にこんなことになってるの!?」
「……実はですね、私の父が、しんのすけさんのことを大変気に入っていまして……」
「……それで?」
「好きかと聞かれて、大好きですと答えまして……」
「……それで?」
「結婚することになりました」
「いやおかしいから!!色々飛び過ぎだって!!」
「あら。ちゃんとご家族にも確認を取りましたよ?」
「か、確認?」
「はい。ひまわりさんに。しんのすけさんと結婚したいと言ったところ、『あんな兄で良ければ、じゃんじゃん結婚してやってください』って言われましたし」
「それ、家族だけど、オラへの確認は!?」
「そんなもの必要ありません。私としんのすけさんが結婚することは、すでに決定事項ですし」
「えええ……」
「……あら、もうこんな時間。すみませんが、会議に出席してきます」
あいちゃんは、愕然とするオラを置いて、部屋の出入り口に向かって行った。
「ちょ、ちょっとあいちゃん!まだ話は―――」
「――しんのすけさん。一つ、言っておきますね」
部屋の入り口を開けたところで、オラの方を振り返る。
そして、不敵な笑みを浮かべた。
「――私も父も、かなり“しつこい”ですから。あしからず……」
そう言い残したあいちゃんは、部屋を出ていった。
残されたオラは、ただ愕然とするしかなかった。