医師「痛み止めを点滴しているおかげで今は元気に見えますが、薬が切れると激しい腹痛に襲われるらしいのです。以前は1日一回の点滴でしたが、今では薬の量は増え、回数も多くなってきてます。」
ひろし「そんな!」
医師「癌は確実に進行しています。もう痛み止めでは限界でしょう。これ以上痛み止めを使えば、母体にはもちろん、赤ちゃんの負担にもなりかねません。」
ひろし「…なんとかならないんですか?」
医師「…まだ赤ちゃんは出産できるまでに成長しきっていません。今、手術で赤ちゃんを出産したとしても脳に障害が発生したり、最悪の場合死んでしまう恐れもあります。」
ひろし「なら…」
医師「残酷な事を申し上げますと、奥さんか赤ちゃん…どちらかを、選ばなくてはならない時がくるかもしれません。覚悟しておいてください。」
ひろし「く…そんな、どうして!」
みさえか赤ちゃんか…
そんなの選べるわけがない。
どっちも俺の家族だ。
愛する家族なんだ!!
ひろし「うぅ…みさえ…どうしてこんなことになっちまったんだよぉ…」
どうすればいい、
俺は…どうしたらいいんだ。
選ぶしかないのか…?
命に、優先順位をつけろってのか…?
神様、あんたはなんて残酷なんだ。
医師「…奥さんに伝えるかどうかはあなたに任せます。」
――――
ひろしはしんのすけと屋上に来ていた。
1人は、寂しかったのだ。
ひろし「月、綺麗だなあ」
しんのすけ「満月ですな」
ひろし「…しんのすけ。」
しんのすけ「なあに、父ちゃん?」
ひろし「お前は男だ。もう立派な俺の息子だ。だから隠し事はやめる。」
しんのすけ「うん」
ひろし「かあちゃんはな、死んじゃうかもしれない。…かあちゃんが助かっても、今度は赤ちゃんが死んじゃうかもしれない。かあちゃんの病気のせいで、どっちかしか助からないかもしれないんだ。」
しんのすけ「…うん」
ひろし「しんのすけ…お前はどっちだ?」
ひろし「お前なら、どっちにいてほしい?」