「疲れた」
「えっ? もう?」
元気だったのは最初だけ。すぐにバテた様子。
「喉渇いた」
「んじゃあ、スタバにでも行ってみるか?」
「豚箱?」
「スタバだよ! コーヒーを飲む店!」
「ああ、あの伝説の……」
「駅前に伝説があってたまるか!」
これも引きこもりの弊害か。嘆かわしい。
地元なのに、行ったことがない様子。
先行きに不安を感じつつも、入店。
「見て、人がゴミのようだわ」
「失礼だろうが! 口を慎め!」
丁度休日ということもあって、混雑していた。
どうやらこの女は、人混みが大の苦手らしい。
ガリ勉の口の悪さに辟易としながら注文する。
「ヘーゼルナッツアイスカフェモカのトール」
「何それ、呪文?」
「呪文じゃなくて注文だよ。お前は?」
「そう言われても、わからないわ」
そう言って俯くガリ勉の哀しげな表情を見ていると、人目を憚らず抱きしめたくなって、そんな気持ちを誤魔化す為に早口で呪文を唱える。
「アイスエクストラショットソイキャラメルキャラメルマキアートのトールをください!!」
「二度もキャラメルって言う必要ある?」
「も、文句があんなら自分で注文しろ!」
「いいえ。あなたが選んでくれたのだもの」
ここぞとばかりに、笑顔になるのは、反則だ。