「そのまま顔を近づけて」
「こ、こうか?」
「……近すぎ」
「む、難しいな」
思わず謝りそうになったが、ぐっと堪えたぞ。
「それから、ええっと……なんだったかしら?」
「おいおい、大丈夫か? しっかりしてくれよ」
「う、うるさい! 今考えてるから待ってて!」
どうやら即興の演出らしい。しかし、困った。
「なるべく早くしてくれないか?」
「せ、急かさないでよ! 考えてるんだから!」
「でも、そんなに長く待てないというか……」
「はあ? 何それ、どういう意味よ?」
「こうしてると……キス、したくなっちまう」
顔が近いだけで、吸い寄せられる。やばい。
「ちょ、ちょっと待って! まだ早い!」
「もう待てねーよ。だいぶ我慢してる」
「告白が先! キスはそのあと、たっぷり……」
「どっちが先でも変わんねーだろ」
もう自分が何を言ってるかわからず接近して。
「や、やっぱりだめぇーっ!!」
「ぶべっ!?」
盛大なビンタと共にその夏は終わりを告げた。