女「このまま一緒にいたら、あなたも、私も前に進めなくなります」
男「・・嫌だ」
女「あなたの将来が台無しになってしまいます」
男「嫌だ・・嫌だ!」
女「もう、あなたが家に来ても、私はあなたに会いません」
男「女っ・・嫌だっ・・オレっ!!」
女「男君」
男「え?」
女「私に誇れるものを持ってきてください」
男「え?・・え?」
女「私に自慢できる、あなたの将来を持ってきてください・・・その時、もう一度会いましょう。その続きは、その時考えましょう」
男「女っ!!」
女「さよなら」
ガチャン・・・プー・・・プー・・・
何度かけなおしても、その日は電話が通じることは無かった。
オレは布団に包まって泣き続けた。
オレが手放してしまったものの大きさをかみしめた。
空が白んだ頃、やっと少し冷静さを取り戻し、彼女と最後に喋ったことを思い出していた。
彼女の声も震えていた。
ずっと彼女を見てきた俺には分かる。
ああいう声のとき、彼女は表情を変えずに泣いている。
彼女もまた、辛いのだ。
辛いが、オレのためにあえて手を離したのだ。
彼女はオレのことを愛してくれている。
オレが彼女を愛しているように。
だからオレは彼女の愛に包まれている。
オレはいつだって彼女に敵わない。
彼女はうまく歩くことができない。
でも、本当の意味でうまく歩けていないのはオレだった。
オレが彼女の手を引くように、彼女は今、オレの手を引いてくれているんだ。
夜が明けて、オレはシャワーを浴びた。
目標ができた。
来年の冬が終わる頃、オレは彼女に自慢できるものを持って、彼女に会いに行く。