体育教師が僕の名前を呼ぶ。今回もまたその制度にめでたく選ばれた。
すっかりこの制度の常連となった僕は特に気にすることなく
いつも通り負けに行った。
痛くなけりゃいいけど。
対戦相手はクラス一の巨漢、
柔道部のレギュラーと聞いた。
正方形の真ん中で互いに向き合い
開始の合図を待つ。他のクラスの奴らはすっかり
観客モードだ、公開処刑を楽しんでいる。
「はじめ!」っと体育教師の気合の入った合図で試合が始まった。
相手の手に届く範囲に入ったらすぐさま投げられるだろう。
適当に間を空けていたがすぐに間合いを詰められ胸倉を掴まれる。
いきなり背負い投げでせめてきやがった。
だが、僕があまりにも力を入れていなかったせいか相手も
バランスを崩し僕は、不完全なまま畳へ叩きつけられた。
受身も中途半端だったので正直痛い。
「有効!」
むしろ一本の方がよかった。
このまま寝技が来れば僕は負けていたのに
柔道部員はそうしなかった。寝技ではなく派手に決めたいのだろう。
観戦モードの奴らがちゃかしてくる。人の気も知らないでと
睨もうとした時、挌技室の隅にちょこんと正座する人影を見つけた。