そして記憶の底の方から
何かが沸々と湧き上がってくる。
思い出したよ!
写真部の後輩は女の子だったんだよ!
彼女は俺が中三の二学期に
引っ越してきた二つ下の子。
俺、その子のことが
凄く好きだったんだよ。
簡単に言うと片思いね。
簡単じゃないけど。
田舎に似合わない垢抜けた子で、
とてもおとなしかった。
そしてかわいかった。
地元の女の子とは明らかに
種類が違ったせいで
浮いた存在だったように思う。
理由はわからないけど、
その子が突然写真部に
入部してきたんだわ。
既に先輩は卒業してたから
部といっても俺一人。
しかも鉄撮りメインの厨坊だったから
年下の女子となんて
どうやって接していいかわからない。
だから部活では手当たり次第に
彼女を町中の撮影ポイントへ
連れて行ったんです。
放課後になると
自転車の二人乗りで駆け回る。
同級生にはヒューヒューと
冷やかされるんですが
部活という大義名分があるんで
強気でした。
今日は公園、明日は堤防、
その次はその次は……
鉄ポイントしか知らないクセに
フォトジェニックな場所を目指して。
細かい会話どころか
彼女の声すらまったく思い出せないけど、
自転車の二人乗りで走り回った
風景が鮮明に浮かんでくる。
思い出すのは
なぜか夕暮れのイメージばかり。
河原の土手に二人並んで座ってる風景、
俺が自転車を押す後ろを
彼女がトコトコついて来る風景、
赤い暗室でプリント作業をしてる風景…
クリスマスの頃だったかな?
街のイルミネーションを撮りに行こうとか
理由をつけて出かけたことがあった。