しばらく女性を観察して大丈夫そうだと確認した後、
俺がポーチの口をそっと閉めた時に車掌さんが現れた。
車掌「大丈夫ですか?お客様。」
俺 「えぇ、大丈夫です。」
車掌「コレ使って下さい。」
厚めのビニール袋を俺に差し出してくれた。
既にマスクを着用した車掌さんはこれまた持ってきていた
毛布のようなタオルケットを女性に被せ、
そしてこれまた持ってきていた消臭剤やら消毒剤やらを辺りに振りまいていく。
(……慣れてるな…。)
きっと車内で吐く人ってそれなりにいるんだろうなと思った。
車掌さんは俺に対して
「次の停車駅で駅員を呼んで待機させているので一旦降りましょう」
と促し、電車の後方に戻っていった。
どうやらここへ来る前に次の停車駅へ連絡しておいてくれたらしい。
完璧過ぎるぞこの人……。
社会人としてすごく劣等感を抱いた………。
程なくすると次の駅に近づいてきた為、
俺はタオルケットを女性の頭の上に改めて被せ直した。
顔さえ見られなければ起き上がっても恥ずかしさは随分軽減出来る筈である。
タオルケットの上から女性に話しかけた。
俺「次、降りますよ。」
女性から返事はなかったが頭が少し頷いた。
電車がホームに入り速度が緩やかになったのにあわせて
女性の身体をゆっくり持ち上げ、立ち上がらせる。
バッグを取ろうとする女性を制し、扉の方へ促した。
俺は汚れていない手で女性のバッグと自分の荷物を全て持って扉へ向かった。
改めて気付くと俺が居た車両にはほとんど人が居なかった。