このクラスはア行、カ行から始まる姓が多い。
本来、真ん中辺りで呼ばれるハズの僕の姓も、このクラスではやや後方に位置している。
必然的に、名簿順で返却される答案が僕の手元に渡るまでに、少々の時間を要する。
殺すならさっさと殺してくれれば良いのに。
つくづく残酷だ。
教師「曽和さん。」
「はい。」
サ行最後の一人、曽和優華さんが席を立つ。
次はタ行。
僕の姓だ。
教師「田中くん。」
「はい。」
教師「津田さん。」
「はい。」
来る。
教師「出木杉くん。」
出木杉「・・・・・・はい。」
僕は力なく返事をした。
【努力】
“努力に勝る天才なし”
誰の言葉かは知らない。
というか、もはや知る必要もないぐらい使い古され、手垢にまみれた言葉だ。
だが僕はその言葉が嫌いではなかった。
天は学力という物を無償で貸し与えてくれるほどお人好しではない。
自ら努力し、勝ち取る事でしか手に入らない。
両親は僕を学問漬けの英才教育で育てたワケではなかった。
ただ、努力する事の大切さを説き、努力の果てに一定の成果を挙げた暁には、盛大に誉めてくれた。
それが嬉しかった。
もっと誉めて欲しい。
その一心で勉強に励んだ。
そう、両親は僕を“努力のできる人間”に育ててくれたのだ。
と、思っていた。
中学生の頃までは。
出木杉「・・・はぁ。」
オマエ何点ダッタ?
思ッテタヨリ良カッタヨ。
完全ニやまガ外レチャッタァ。
凹ムワァ。
マァ、コンナもんダロ。
教室には悲喜こもごもの声が渦を巻いている。
各自の顔に浮かぶ表情も十人十色だ。
が、詰まるところ、その点数に満足している人とそうでない人の二種類でしかない。
かく言う僕は
男子「出木杉ぃ。何点だった?」
出木杉「・・・・・・71点・・・だよ。」
後者だった。