黒服1「安心してくれ。骨川スネ夫が来るまでは君たちは殺さない。奴を呼ぶための餌にな
ってほしいんでね……。しかし、ただ待っているのも退屈だ。ちょっとした遊びを
しようじゃないか」
黒服はそういうと、ジュラルミンケースを――のび太が作った空気ピストルを机の上に乗せ、
銃口を自分の方へと向けた。
黒服1「空気の圧縮はしておいた。つまり、君たちの誰かが”あの言葉”を口にすれば、この
空気ピストルで俺を倒せるということになる。
――ところで、見たところ君の作った空気ピストルは誰の声でも反応するようにで
きているらしい。しかし、普通はそれじゃ暴発の可能性がある。だから俺の空気ピ
ストルは、登録した人間の声だけに反応するようになっている。同時に登録できる
声は5人まで。そして……今この空気ピストルには俺、死んだ相棒、野比のび太、
出木杉英才、剛田武の声が登録されている」
黒服の男は近づいてくると、のび太の口のガムテープをはがした。
続いて、出木杉、ジャイアンのガムテープもはがす。
そして再び空気ピストルをしずかの眉間に向けた。
黒服1「さあ、言いたければ言え。”あの言葉”を言えばおまえらの空気ピストルが作動して
俺を倒すことが出来る。ただし、同時に俺の空気ピストルも作動し、源静香が死ぬ
ことになるがな」
のび太、出木杉、ジャイアンの3人は黙っていた。
「バン」と言えば黒服の男を倒すことが出来る。しかし、同時にしずかも死ぬ……
ジャイアン(言えねぇ……言えばしずかちゃんが死んじまう)
出木杉(……奴の空気ピストルに登録されている声は、僕、のび太くん、剛田くん、黒服の
男たち……ということは)
のび太(奴の空気ピストルに声を登録されてない人間……スネ夫が奴に見つかるより先に
「バン」と言えば僕らの勝ちだ)
しずかが、「わたしに構わず言って」と言いたげな目で3人を見ている。
しかし、その選択肢は3人にはなかった。
出木杉(やるしかない……)
出木杉は後ろ手で携帯電話を操作し、スネ夫の携帯に電話をかけた。
GPSで藤子大へ向かっていたスネ夫が出木杉からの電話に出ると、
彼が何を言うより早く出 木杉の大声が受話器から聞こえてきた。
どうも自分ではなく、別の相手と話しているらしい。
スネ夫(あの言葉……?)
出木杉『スネ夫くんがここへ来て、おまえに見つかるより早く”あの言葉”を言えば僕らの勝
ちなんだ。僕らはそれを待つ!』
黒服1『無駄だ。ここにはセンサーがたくさん仕掛けてある。スネ夫が来ればすぐに俺には
わかるさ。スネ夫に空気ピストルを撃たせることは不可能だ』
スネ夫(出木杉と黒服の会話だ……GPSから見てのび太もジャイアンもしずかちゃんも、出木
杉と一緒に奴に捕まってる……)
スネ夫(出木杉は僕に何を言わせようとしてるんだ? ……あの言葉……空気ピストル……そ
うか!!)
出木杉は自分に「バン」と言わせようとしているのだ。
事情はよくわからないが、おそらく彼らは「バン」と言えない状況にいる。
だから代わり に自分に「バン」と言ってくれと言ってるのだ。
スネ夫(しかし、みんなのいる藤子大には黒服の言葉どおりならセンサーが……そうか、電
話越しに叫べば!!)
出木杉(頼む、スネ夫くん。「バン」と大声で言ってくれ。そうすれば……)
黒服1「待て」
黒服が出木杉の背中を蹴り上げる。
黒服1「変に説明くさいことを言いやがって。何を企んでる?」
出木杉(頼む!スネ夫くん、言ってくれ……)
スネ夫『バン!!!』
電話からスネ夫の声が聞こえてきた。