「本当に本人なのかな」と疑いながら送られてきた写メを眺めていると、
そんな俺の心を見透かしたかの様に、2つ目の写メが送られてきた。
今度の写メではさっきの写真と同じ女の子がメモを持っている。
『8/10 美紀(ハートのマーク)』
これで本人確定。俺はすぐにお礼のメールを送った。そして自分で要求して
おきながら「こんなちゃんと顔が写ってる写真送って大丈夫なの?」と彼女を
心配するメールを送った。矛盾する言動。馬鹿丸出し。
彼女が言うには、写真を送ってそれがネットとかに出回らないかが心配だった
のだと言う。でもこのひと月メールをしてみて、俺はそういうことはしない人間だと
判断してくれたのだという。顔を見せること自体は別に嫌ではないらしい。
信用してもらえたのは嬉しかったけど、それでもやっぱり無用心すぎると思った。
ひと月やそこらで、しかもメールだけのやりとりなんかで相手を信用しちゃダメだ。
自分の彼氏だって結構危険。でないと、ネットに出回る数々のハメ撮り写真の
説明がつかない。付き合った相手だって、別れ際がこじれたら、何をしでかすか
わからないっていうのに。
その夜は彼女にオヤスミメールを送った後も、なかなか寝付けず、彼女の写メを
ベッドの中で眺めて、メールの相手が思いのほか美人であったことに、なんだか
得した気分を味わっていた。
その頃俺は、よく「恋愛感情とはなんなのか」についてよく考えていた。
何をもって、その対象を「好きだ」と人は感じるのだろうか?
顔だろうか。内面だろうか。生物学的には行為できる確率が高いと
そうなるんだろうか。
だとすれば、俺が彼女を抱ける確率は果てしなくゼロに近いわけだが、
それでもその時点での俺の交遊範囲のなかで、もっとも交流の頻度が高い美紀を、
俺の脳は最も抱ける確率の高い相手としてはじき出し、彼女に対する
恋慕の情を生み出しているのかもしれない。
そんな風に、どんなに考えて彼女への恋愛感情を正当化しようとしても、一歩下がって
客観視すれば、俺は金で買ったメールを喜んでいる寂しい男なのだ。そんなことはずっと
わかっていて、だから彼女が俺のことを「信用」して、顔写真を送ってくれたことが
よほど俺には嬉しかったのだろう。
このメールのやり取りは、初め思っていたほどビジネスライクなドライなものではない。
やり取りを重ねていくうちに向こうも段々と情を通わせてきている。まあ情と言っても
恋愛感情とは程遠いかもしれないけど。キャバクラに通う人の気持ちが少しわかった
気がした。