それは授業中でした。
「先生、花の水を代えてきます!」
その男の子が突然立ち上がり、
教壇の横に置かれた花瓶を手にし走り出しました。
今まで花の水を気にしたのを
見たことがありませんし、
ましてや授業中の出来事です。
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「コラ!何やっている、今授業中だぞ。花の水換えはあとでいい!」
っと、呆気にとられながらも反射的に先生が大声を出した時、
不運にも事件は起きました。
クラスの中でも大人しいその転校生の女の子の席で
男の子が止まったかと思うと、
彼女の頭の上に花瓶をひっくり返したのです!
一瞬、教室内が凍りついたように静まり返りました・・・
花瓶の水が女の子の足元まで水浸しにして、
床には花瓶に差してあった
黄色やピンクの花が散らばっています。
静まりかえった教室は次の一瞬
「あーあ!あーあ!」の大合唱。
女の子達は、男の子に対して非難の声を上げ、
男の子たちは面白がっている状態です。
「わざとやったんだよ」
「かわいそー」
「ひどいよー」
しまいには口笛を吹いて面白がる始末です。
こうなると先生が幾ら言っても無駄です。
普段から大人しくてシャイな女の子は、
みんなの注目を浴びて
かわいそうなほど小さくなっています。
そんな2人の所へ先生が駆け寄りました。
「どうしてこんな事をやったんだ」
と先生が怒っても男の子は何も答えません。
ただ「ごめんね。ごめんね・・・」と言いながら、
男の子は申し訳なさそうに、
俯き固まっている女の子に頭を下げると、
すかさず教室の後ろからバケツと雑巾を持ってきて
こぼれた水を拭き始めました。
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びしょぬれのスカートで座ったままの女の子は
本当に気の毒なくらいに押し黙っています・・・
先生が女の子を着替えさせる為に
保健室に連れて行った時、
大騒ぎするクラスの中では、
男の子は理由を話さず黙ったまま
床にこぼれた水を拭いていました。
この時、生徒たちの気持ちの中には
「人気者だったのに、あんな事をする奴なんだ」
と男の子を非難する思いが残りました。
そしてこの出来事は、クラスで
「花瓶の水」事件として、
永く記憶に残る事になったのです。
それから数年後、生徒たちも20歳になりました。
田舎の成人式には、
町を出て行った子供たちも帰ってきていたので、
久し振りにクラス会が行われました。
あの時水をかけた男の子もいました。
水をかけられた女の子も東京からやって来ました。
そして会も盛り上がり、
集まったクラスの一人一人が
小学校時代の思い出を話しだしました。
その時、水をかけられた女の子が
小学校時代の一番の思い出を語るときに、
この「花瓶の水」事件を話してくれました。
そしてその話を聞いたとき
当時のクラスメートと先生は
「思っていた話とは違う!」
と誰もが思ったのです。

