しんちゃんは僕の首紐を持って街の中を駆ける。
でもやっぱり、いつもと違う。
いつもなら、彼は時々僕を見る。そして、僕の名前を呼ぶんだ。
特に呼ぶわけじゃない。用事があるわけでもない。ただ、僕の名前を呼ぶ。
それはとても不思議なんだけど、とても落ち着く。
……でも、今日は僕を見てくれない。名前も呼んでくれない。
ただ前を見て、何かから逃げるように走っていた。
そんな彼を見てみると、僕は何も言えなくなった。
本当に、いつもと違う……
「――お姉さーん!オラと一緒に、愛の逃避行しなーい??」
「や、やめとくわ……」
……いつもと、違う、よね?
(しんちゃん、どこに行くの?)
「……」
しんちゃんは、何も答えない。
ただ前を向いて、歩き続けていた。
「――あれ?しんのすけ、どうしたんだ?」
曲がり角を曲がったところで、風間くん達と出くわした。
ねねちゃん、ぼーちゃん、まさおくんもいた。
「おお!みんな!」
「こんにちは、しんちゃん」
「しんちゃん、どこ行くの?」
「おお!オラ、これから家出するんだゾ」