「……こんなの、受け取れないよ……」
「そう言うなって。親族からの気持ちだから、素直に受け取りなさい。アタシも無名だったころに、散々みさえ姉さんに援助してもらってたしね。それを返してるだけなんだよ。
……それに、しんのすけ達の元気そうな顔を見れたから、それでいいの」
むさえさんは、優しくそう話した。
「……もしかして、むさえさん。オラたちの様子を見に……」
オラの言葉に、むさえさんは照れ臭そうに頬を指でかく。
「……まあ、アンタ達に何かあったら、あの世でみさえ姉さんに合わせる顔がないしね……」
「むさえさん……」
「――そろそろ行かなきゃ!じゃあね!!」
そう言い残すと、むさえさんは出ていった。
「……なんか、カッコよくなったね、むさえおばさん……」
オラの後ろから、ひまわりが呟く。
「……そんなこと言ったら、またむさえさんにどやされるぞ?おばさんって言うなって。
――でも、その通りだな……」
いつもオラたちのことを気にかけてくれているむさえさん。その気持ちには、感謝してもしきれない。
オラとひまわりは、彼女が出ていった玄関に向け、小さく会釈をした。
「――おーいみんな!ちょっといいか!」
工場の中で、工場長が声を上げた。
その声に従業員は手を止め、彼の方を見る。もちろん、オラも例外じゃない。
「今日はうちの工場に、元請けのお偉いさんが視察に来る!しっかり働けよ!」
「うぃー!」
「それだけだ!作業に戻ってくれ!」
工場長が話を終えると、従業員は再び手を動かし始めた。
(元請けのお偉いさんか……難癖でも付けにくるのか?)
心なしか、全員緊張しているようにも見える。何しろ、元請けだしな。下手なことをしていたら、最悪契約を切られる。そうなったら、こんくらいの工場は、あっという間に危機に陥るだろうし。