「……まあ、身を隠すだけならいいけど。それに、いくら九州のじいちゃんでも、さすがにここにいるなんて……」
プルルル…
突然、家の電話が鳴り始める。
「……まさか……」
「……ひょっとして……」
「……う、ウソでしょ……」
オラたち三人に、緊張が走る。
ひまわりとむさえさんにアイコンタクトをした後、オラが電話に出た。
「……も、もしもし……」
「――ああ、しんのすけか。九州のじいちゃんたい」
「―――ッ!」
「むさえに伝えてくれんね。――いい加減、諦めて九州に戻れとな。頼んだばい」
そして、電話は切れた。
呆然とするオラに、ドアの陰に隠れたむさえさんがおそるおそる顔を覗かせた。
どうだった?――そう言わんばかりの顔をして、オラに注目する。
オラは静かに、親指を立て、アウトのジェスチャーを取る。
それを見たむさえさんは、一人、ムンクの叫びのような顔をするのだった。
「と、父さんにバレてたとは……」
むさえさんは、居間の中央で項垂れる。
「……まあ、親子ってことじゃないの?」
「さすが九州のじいちゃんね。むさえおばさんの行動パターンを読んでる……」
ひまわりは腕を組みながら、感慨深そうに呟く。
「――こうしちゃいられない!」
むさえさんは、さっさと荷物をまとめて玄関に駆け出した。
「え?もう帰るの?」
「まあね!父さんに居場所がバレてるなら、長居は無用!」
むさえさんは急いで靴紐を結ぶ。と、その時――
「――あ、そうだった。はい、しんのすけ」
むさえさんは、オラに封筒を手渡してきた。
「これ……」
「少ないけど、なんか美味しいのでも食べなよ」
むさえさんが渡してきた封筒には、けっこうな額のお金が入っていた。