【クレヨンしんちゃん】しんのすけ「……父ちゃん、母ちゃん。ひまわりは今日も元気です。――行ってきます」誰も知らない22年後・・・

それからしばらくすると、工場に一人の女性が入って来た。
長い黒髪をした女性だった。スーツを着こなし、毅然として歩く。

彼女は工場長からの説明を受けた後、工場内を見て回る。

そんな彼女の姿を見た従業員は、思わず手を止めていた。
それもそうだろう。何しろその女性は、かなりの美人だった。どこか童顔ではあるが、整った鼻筋、仄かに桃色の唇、きりりとした凛々しい目……その全てが、美人と呼べるだけのパーツであり、絶妙な配置をしている。彼女の顔を間近で見れば、目の前の作業なんて忘れてしまうだろう。

……だが、どこか見覚えもある。
どこだっただろうか……

「……あら?」

ふと、彼女はオラの顔を注視した。

(やば……なんか問題あったか?)

オラは目の前の作業工程を頭の中で確認する。不備は……ない。
だが彼女は、ツカツカとヒールの音を鳴らせながら、オラの方に近付いてきた。

そしてオラの横に辿り着いた彼女は、オラの顔を覗きこむ。

「……な、なんですか?」

「………」

彼女は何も言わない。ただ黒い瞳を、オラに向けていた。見ていると、何だか吸い込まれそうになる……

――と、その時……

「―――しん…様?」

「……はい?」

女性は、オラにそう話しかけて来た。
その呼び方をする人は、オラの知る限り一人しかいない……それは……

「……もしかして……あい、ちゃん?」

すると彼女は、それまでの凛々しい態度を一変させ、その場で飛び跳ねてはしゃぎ始めた。

「やっぱりそうだ!――そうです!あいです!酢乙女あいです!お久しぶりです!しん様!」

……工場内には、どよめきが走った。

「――はい、あいちゃん」

休憩所の中で、オラはあいちゃんにコーヒーを手渡す。

「ありがとう、しん様」

「このコーヒー、スーパーの特売品だから、あいちゃんの口に合うか分かんないけど……こんなものでゴメンね」

するとあいちゃんは、首を振って笑顔を向けて来た。

「そんなことないです。しん様が入れてくれたものですもの。それだけで心が満たされます」

そしてあいちゃんは、コーヒーをすする。

「……うん。悪くありません」

「ありがとう、あいちゃん。……ところで、そのしん様って呼び方、どうにかならないかな……」

「……嫌、ですか?」

「嫌というか……なんか、恥ずかしいし……」

「………」

しばらく考え込んだあいちゃんは、口を開いた。

「……分かりました。今日からは、しんのすけさんとお呼びいたします」

「助かるよ……」

彼女は、微笑んでいた。そんな彼女に、オラも微笑みを返した。

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