ここぞとばかりに、自らの武勇を示すかの如く、逞しい方々は飛び掛かる。
勇ましい。実に勇ましい。
覆面達は銃を使う暇もなかったようだ。肉体と肉体による、激しい乱闘が始まる。
まるで映画のワンシーンのようだ。
オラは見物客だけど。しかし、アピールするには確かに最適かもしれない。
何も出来ないにしても、オラも何かすべきだろうか―――
――その時、オラの目が捕えたのは、恐怖のあまり涙するあいちゃんの姿だった。
その姿を見たオラは、無意識にあいちゃんの方に走り出していた。
そして震える彼女の体を掴み、声をかけた。
「あいちゃん!!大丈夫!?」
「し、しんのすけさん……」
とりあえずは大丈夫のようだ。とにかく、彼女をどこかへ避難させないと……
「あいちゃん!!まずここを逃げ―――!!」
「――試験!!終了~!!」
突然、試験官のおじいさんが声を張る。その声に、全員が動きを止めた。
「………へ?」
全員が動きを止める中、さっきまで泣いていたあいちゃんがすくりと立ち上がった。
「ええと……あい、ちゃん?」
「……しんのすけさん、騙してごめんなさい」
「……どういうこと?」
すると、あいちゃんはクスリと笑った。
「――これが、試験なんですよ。私の身が危なくなった時、真っ先に私に駆け寄って来るかどうかを確かめるための……」
「え?え?で、でも、あいちゃん震えてたし……それに、泣いてたし……」
オラの言葉に、あいちゃんは更に微笑む。
「……私の演技も、なかなかでしょ?」
(あ、あいちゃん……そりゃないよ……)
あいちゃんの説明に、筋肉隆々の男達はぶーぶー文句を言い始める。
「ナンダヨソレ!!」
「聞イテナイヨ!!」
……とまあ、好き勝手叫びまわっていた。
だがここで、試験官の爺さんが口を開く。
「――お黙りなさい!!」
それまでの彼とは全く違う、覇気のある言葉だった。
試験官の言葉に、男達は固まる。
「……お嬢様の身が危ないというのに、自分の評価のために、お嬢様を差し置いて犯人に飛びかかるとは何事ですか!!
あなた方は、これが何の試験か分かってるのですか!?
あなた方の行動は言語道断!!プロとしての意識が欠如し過ぎている!!――失格で、然るべきです!!」
「……」
男達は、黙り込んだ。
暑苦しい男達は、今にも泣きそうな顔をしていた。
鬼の目にも涙、か……