「――それにしても珍しいね。風間くんがオラと飲みたいなんて……」
「まあ……たまには、な……」
街角の居酒屋で、オラと風間くんは酒を交わしていた。
その居酒屋では、仕事帰りのサラリーマンが、その日の疲れを癒すかのように顔を赤くして騒いでいた。
うるさくはあったけど、どこか幸せそうなその喧騒は、不思議と耳に入っても不快感はない。
そんな店の片隅に、オラと風間くんは座っていた。
今日飲みに誘ったのは他でもない。風間くんだった。
しかし彼は、どこか様子がおかしい。
何か、言いたいことでもあるようだ。
しばらくして、風間くんは意を決して言ってきた。
「……しんのすけ。お前に、話さなきゃならないことがあるんだ」
「……どうしたの?改まって……」
風間くんは、もう一度言葉を飲む。
そして、切り出した。
「……実は、あの日ひまちゃんが帰った時、仕事帰りじゃなかったんだ。
――僕と、会った後なんだよ……」
「……どういうこと?」
「それは……つまり……」
風間くんは、もう一度、息を吸い込む。
……それから先は、聞きたくなかった。
「――僕とひまちゃん、付き合ってるんだ」
「……」
店内が、静まり返った気がした。
他の言葉は、音は、何も耳に入らなかった。
「……!」
感情が、昂り始めたのが分かった。
たまらずオラは、乱雑にテーブルの上にお金を置き、店を飛び出した。
「し、しんのすけ!」
風間くんの声が聞こえた。
でもオラは、何も聞きたくなかった。
夜の町のなかを、早足で歩く。一歩でも遠くに行きたかった。
ひまわりは、風間くんと会っていた。
そしてその帰り道、事故に遭った。
――たった一人で、帰る途中に……
「――おい!しんのすけ!」
街中から少し外れた公園で、風間くんはオラに追い付いた。
後ろから、風間くんの息が切れる音が聞こえる。ずっと走ってきたのだろう。
でも今は、顔を見たくなかった。
風間くんは、オラの背中に向けて話しかけてきた。