「……そっか……そんなことが……」
オラは、ななこさんに愚痴を零すように、全部話した。
もちろん、ななこさんはひまわりが事故に遭ったことを知っていたし、お見舞いにも来ていた。
それでも、一から十までを、ななこさんに話した。
それは、オラの愚痴でもあったし、贖罪でもあった。自分がこれだけ嫌な人間であることを、誰かに聞いてほしかった。
ななこさんは、オラの話を何も言わずに聞いてくれていた。
そして、話し終えたオラに、笑顔を向ける。昔と変わらない、あの頃のままの笑顔を。
「……しんちゃんの気持ち、何となく分かるよ。しんちゃんだって、本当は二人を祝福したいし、風間くんを恨んでなんかいないんだよね?」
「……うん」
「でも、どうしても風間くんとひまわりちゃんに強く当たってしまう……。それはね、きっと、まだしんちゃんの中で色々整理がついてないからだと思うな。
お兄ちゃんだからしっかりしなきゃいけない。お兄ちゃんだからひまわりちゃんを支えないといけない。たしかに、それは立派なことだと思うし、ひまわりちゃんも救われてると思う。
……だけど、しんちゃん自身はどうなのかな」
「オラ……自身……」
「しんちゃんだって、本当は辛かったでしょ?
お父さんたちのことがあって、ひまわりちゃんのことがあって、風間くんのことがあって……それでも、お兄ちゃんとして何とかしなきゃいけない。
それって、時に自分を追い込む結果にもなると思う」
「………」
「お兄ちゃんでもない。風間くんの友達でもない。しんちゃんが、しんちゃんとしてどうしたいのか……それを、一度振り返ってもいいんじゃないかな?」
「オラが、オラとして……」
するとななこさんは、少し困ったように笑みを浮かべた。
「ごめんねしんちゃん。私に出来るのは、こんなことを言うくらいしかないんだ。これについては、しんちゃん達が、自分達で解決するべきことだと思うんだ。
誰かに答えをもらうんじゃない。誰かに助けてもらうんじゃない。
しんちゃん達が、本当の意味で向き合って答えを見つけることなんだと思う」
「……」
「……あんまり力になれなくてごめんね」
「……そんなこと、ありません」
そしてオラは、立ち上がった。
「ありがとう、ななこさん。オラ、もう一度ひまわり達と話してみるよ。それで、もう一度考えてみる」
「……うん!頑張って!しんちゃん!」
ななこさんは、とても暖かい笑顔を向けていた。
その笑顔が、オラの背中を押してくれた気がした。優しく、そっと。