「……そうだったんですか。ねねちゃんから……」
「はい。しんのすけくん達のことは、桜田先生からよく聞いています」
オラとイケメンは、行く方向が同じだったため、二人ならんで歩いていた。
なんでも、ねねちゃんは、よくオラ達の話をするらしい。
それにしても、よくオラって分かったな……イケメンは、第六感までも凄まじいのかもしれない。初対面でくん呼ばわりするあたり、少し馴れ馴れしいが。
「……そう言えば、保育士さんなんですよね?」
「ええ。一応……」
イケメンは、照れながら頭をかいていた。どうでもいいが、いちいちイケメンで困る。
「いやいや、幼稚園ではさぞや人気があるでしょう」
「そうでもないですよ。普通くらいです。それに、僕なんかより、桜田先生の方がよっぽど人気がありますよ」
「……マジですか?」
「マジです。……桜田先生は、本当にパワフルですからね。こういう言い方をすれば語弊があるかもしれませんが、子供のような人なんです」
「へえ……というと?」
「子供が笑えば一緒に笑って、子供がケンカすれば一緒になって暴れて、子供が泣けば、今にも泣き出しそうな顔をしながらあやす……桜田先生は、子供達と同じ目線に立てる人なんですよ。
おまけに、少し変わった親が無理難題な容貌を言ってきても、断固としてそれに応じたりしませんし。あくまでも、子供達を基準に考えているんです。
その姿勢が、保護者、同業者、子供達から、高い評価を得てるんですよ。
……それは、見ていて羨ましいくらいです」
「そうなんですか……」
「ああ、誤解しないでくださいね?僕が羨ましいと言ったのは、僕にはない色々な魅力を、彼女が持っているからなんです。
……彼女はね、僕の憧れなんですよ。僕もああやって、自然体で子供達と向き合いたいんです」
「……あなたなら、きっとできますよ」
「そう言ってくれると嬉しいですね」
イケメンは、嬉しそうにはにかんでいた。
(……まさおくん。どうやらキミは、身も心も完全に負けているようだよ……)
心を色で表現するなら、この人は間違いなく白だ。そしてまさおくんは、どこまでも深い深い黒だろう。
(……明日、店を予約するか……)
その時点で、まさおくんを元気づける会の開催は、決定した。
「――あ、僕はこっちなので……」
三叉路に差し掛かったところで、イケメンはオラとは別の方向を指さした。
「わかりました。お仕事、お疲れ様です」
「いえ、しんのすけくんこそ。また今度、園に遊びに来てくださいね。桜田先生も、きっと喜びますよ」
「そうさせてもらいます。……あ、そう言えば、まだお名前を……」
「……え?」
イケメンは、驚いたように立ち止まった。
「……ええと……」
「……やだなあ、しんのすけくん。僕ですよ……」
「……ぼ、僕?」
「忘れちゃったんですか?――バラ組の、河村やすおです」
「河村やすお?……って、もしかして……チーター!!??」
「あ、そのあだ名、懐かしいですね」
イケメン改め、チーターはクスクスと笑う。だからなぜ一つ一つの動作が、そんなにイケメンなのか……
(チーターって……えええええ!!??別人過ぎるだろ!!!!)
あまりの衝撃にフリーズしていると、チーターは手を振って帰り始めた。
「では、僕はこれで……」
「あ……はあ……」
衝撃から依然として解放されなかったオラは、力なく手を振り返すしかなかった。
……時の流れは、チーターをイケメンにメガ進化させたようだった……