園内をオラ達は歩く。
あれだけ広かった建物は、時々屈まないといけないところがあった。こうやって大人になって見てみると、やはりどこか小さい。
それでも、この空気に触れるだけで、どこか心が躍る。
「……ここが、桜田先生のクラスですよ」
「ここが……」
オラとまさおくんは、窓から中を覗きこむ。
「――はーい!じゃあ次は、紙芝居の時間ですよー!」
「ええ!?もっと歌いたい!!」
「私もー!」
「僕もー!」
「ごめんねぇ。今日はもうお歌は終わりなの。また明日ね」
「えええ…」
「ぶーぶー!」
「ゴチャゴチャ言ってないで紙芝居始めますよー」
子供たちの文句を押し切り、ねねちゃんは強引に紙芝居を開始していた。
「……なんか、ねねちゃん、すごくパワフルですね」
「まあ……ね……。口は少々悪いですが、それでも園児からは慕われていますよ」
「……ねねちゃん……カッコいい……」
続いてオラ達が案内されたのは――
「ここが、河村先生の教室です」
「河村……チーターの……」
オラとまさおくんは、教室の中を覗き込んだ。
「河村先生!絵ができたよ!」
「お!すごく上手だね!先生すごく驚いちゃったよ!」
「河村先生!手伝って!」
「手伝うのはいいけど、最後は自分でしなきゃだめだよ?」
「河村先生!僕も!」
子供たちは、しきりにチーターを呼んでいた。そこにいるのは、間違いなく、生徒から慕われた優しい先生の姿だった。
「河村先生も、物凄く子供に懐かれていますよ。やさしくて、かっこよくて……人気の的なんです」
園長先生は、満足そうにそう呟く。
その姿で、ひとつ確信したことがあった。
チーターは、心に黒い一面があったり、裏の顔があったりしない。ありのままの姿を見せている。
子供は敏感だ。少しでも隠していることがあったり、得たいの知れない何かを持ってたりするなら、絶対にああして笑顔で近づくことはない。
ありのままの姿を見せているからこそ、子供たちは安心して、彼のもとに集まるんだ。
「……チーターは、いい先生ですね……」
「……ええ。本当に立派になりました。私は、彼の園長であったことを誇りに思います」
俺の言葉に、園長先生は幸せそうに返事を返した。
「……」
……一方まさおくんは、相変わらずこの世の終わりのような顔をしていた。
チーターの、あまりの眩しい笑顔に、圧倒されているように思えた。
(……哀れ、まさおくん、か……)