「――いっくよー!」
チーターは、子供たちに向けてサッカーボールを蹴る。きれいな放物線を描いたボールは、ワンバウンドして子供たちの方向に飛んでいった。
子供たちははしゃぎならボールを追う。実に、微笑ましい光景だった。
授業が終わったあと、幼稚園の校庭で、子供たちは先生たちと遊んでいた。
そしてそこには、普段はいない者の姿も……
「――いっくよー!」
まさおくんは、子供たちに向けてサッカーボールを蹴る。低い弾道のボールは、まったく別のあさっての方向に飛んでいった。
「もう!まさおお兄ちゃん!ちゃんと蹴ってよね!」
「うぅ……ご、ごめん……!」
まさおくんは半泣きになりながら、茂みの中に入り込んだボールを回収していた。
オラとまさおくんもまた、子供たちと遊んでいた。
子供と遊ぶのは、正直にいえば疲れる。彼らは疲れを知らず、全力で向かってきていた。
でも、その屈託のない笑顔と声は、自然と心を和ませる。悪くない。
「まさおくん、ちっとも変わっていないわね」
その光景を見ていたオラに、ねねちゃんは近づき話しかけてきた。
「……うん。そうだね……」
オラも微笑を返し、少しの間、校庭で遊ぶ子供たちと、子供と戯れるチーター、子供に翻弄されるまさおくんを見ていた。
「……なんだか、不思議じゃない?」
子供たちを見ていたねねちゃんは、ふと呟いた。
「不思議?」
「うん。――だって、今から20年くらい前には、あそこを走ってたのは、私たちだったのよ?」
「……ああ、そういうことね。そう考えたら、確かに不思議な感じがする」
「でしょ?……子供のころは、何も考えずにああやって走り回って……世の中なんてほとんど知らないのに、まるで全部分かってたかのようにリアルおままごとなんてして……。
――ほんと、子供だったわ……」
「……ああ、実はね、オラ達、ねねちゃんのリアルおままごとが少し苦手だったんだよ?」
「そうなの?」
「うん。だって、やっていて重かったし、もっと楽しいことをしたかったしね」
「言ってくれればよかったのに……」
「言えるわけないよ。ねねちゃん、怒ってただろうし……」
「……そんなに、私って怖かった?」
「うん。すっごく」
「はっきり言うなぁ……」
ねねちゃんは、ばつが悪そうに苦笑いをした。
「ハハハ…!ごめんごめん。――ただ、オラ達はずっと一緒だったね。リアルおままごとにしても、かすかべ防衛隊にしても……」
「かすかべ防衛隊かぁ……。懐かしいね」
「ケンカもしてたけど、あの毎日があったからこそ、オラ達はこうして今でも繋がってる。それって、すごく幸せなことだって思うんだ。
時間は色んなものを変えてしまう。建物だって古くなるし、オラ達にもそれぞれに立場や環境があって、昔みたいに集まることも難しいし。
――でも、それでも変わらないものもある。それが、今のオラ達なんじゃないかな……」
「……しんちゃん、ホントに変わったね。なんていうか、すごく大人になった感じ。実際大人だけど。
とても、昔お尻を出して走り回ってたようには見えないわね」
ねねちゃんは、少し意地悪そうにオラを見た。
「……ねねちゃん。それは言わないで……」