海岸際に来たオラ達は、砂浜に座って海を眺めていた。
波の音以外は聞こえない。
波音の演奏会をしばらく楽しんだ後、あいちゃんは静かに話し始めた。
「……しんのすけさん、私は、最近自分が分からなくなっているんです」
「……分からない?」
「私は、これまで両親の言う通りの人生を歩んできました。両親の期待に応えるために、必死に頑張って来ました。
……ですが、ふと最近思うんです。しんのすけさん、あなたを見ていると……」
「オラを?」
「はい。あなたは、いつも自然体でいます。それが、とても羨ましく思えてました。飾らない自分のまま、人生を歩くあなたの姿に憧れながらも、私は、嫉妬もしていました。
そう思った時、ふと、思ったんです。私は、このままでいいのだろうかって……」
「………」
「……そして先日、それを両親に打ち明けました。そしたら、怒られちゃいました。自分たちの言うとおりにすれば幸せになる……そう、父と母から言われました」
(……怒るほどのことか?)
「それを聞いて、私もっと分からなくなって。……私の人生は、いったい誰のものだろう。両親にとって、私ってなんだろう。
……そんなことを、考えるようになってしまって……」
「……家出を考えた、と……」
あいちゃんは、困ったような笑みを浮かべた。
「家出というわけではないんですけどね。……ただ、一度自分を見つめ直そうって思ったんです」
「………」
彼女は、生まれた時からあらゆるものを与えられてきたのだろう。
お嬢様だし、それも仕方ないのかもしれない。
だけど、今彼女は、そのことで悩んでいる。
今歩く道は、自分で決めたものなのか。ただ両親に促され、流されて生きて来たのではないか……そんな葛藤が、彼女の中にあるんだろう。
それはオラには分からない。彼女にしか、分かりようもない苦悩だと思う。
だけど……
オラは立ち上がり、あいちゃんの手を握った。
「………しんのすけ、さん?」
「あいちゃん、ちょっと来て」
少し強引に、彼女の体を引っ張る。
彼女は、わけのわからないといった表情で、ただオラに手を引かれていた。