すると男の一人に、突然電話がかかってきた。
「……はい。―――ッ!!」
電話に出た瞬間、男の顔色は変わる。
「は、はい――!!……いえ、実は……」
そして男は背を向けて、何かを語り始めた。
「―――え!?で、ですがそれは……!!………はい……はい。分かりました……では……」
電話を終えた男は、他の男達に何かを耳打ちする。
それを聞いた男達は、一様に驚きの表情を浮かべた。
……しかしすぐに、オラ達に背を向けて、離れはじめた。
「……なんだ?」
不思議に思ってると、男の一人が後ろを振り返った。
「……今日のところは、お嬢様をお任せいたします。ですが、何かあった時は……」
「……わかってますって。煮るなり焼くなり、好きにしてください」
オラの言葉を聞いて安心したのか、男はそれ以上何も言わずに、立ち去って行った。
「……いったい、どうしたんでしょうか……」
「……さあね。とにかく、駅に向かおう。電車の時間が、迫ってるし」
腑に落ちないところもあったが、オラ達は、再び駅に向かい始めた。
電車に乗ったオラ達は、線路を走る振動に揺られていた。
窓の外の音は走行音に消されて、単調な音はどこか心地よく感じる。
気が付けば、あいちゃんは眠ってしまっていた。
オラの肩に、頭を預けて。
どうするか考えたけど、起こすのも悪いし、そのまま寝かせることにした。
そんな彼女の髪からは、仄かに海の香りがしていた。
電車は次の駅に止まる。
すると、ホームから、一人の老人が入ってきた。
初老くらいだろうか……しかし身なりは、とてもしっかりしている。スーツを着こなし、白髪の髪を揃えていた。その雰囲気は、威厳に溢れている。
その老人は電車に入るなり、真っ直ぐオラのところへ近付いてきた。
そして、優しく声をかけてきた。
「……隣に座っても、よろしいでしょうか?」
「……え、ええ……どうぞ……」
「ありがとう……」
そして老人は、オラの隣に座る。
電車の中は、オラ達3人しかいない。だから席だってガラガラだった。
それなのに、わざわざオラの隣に座るなんて……でも、その理由は、なんとなく分かっていた。
しばらくの間、オラと老人は、対面の窓の外を眺めていた。
夕陽が窓から射し込み、オラ達の顔をオレンジ色に染めていた。