【クレヨンしんちゃん】しんのすけ「……父ちゃん、母ちゃん。ひまわりは今日も元気です。――行ってきます」誰も知らない22年後・・・

それから2週間経った。

オラがようやく見つけたのは、小さな工場の作業員だった。
正直、手取りはほんのわずかだ。それでも、働けるだけ運がよかったと言えるのかもしれない。

……しかし、この工場の勤務時間は以前の職場よりも長い。これまで夜7時くらいには家に帰れていたが、帰宅するのはいつも夜11時過ぎなった。
当然、夜ご飯など作る時間はない。

「……お兄ちゃん、最近帰るの遅いね……」

オラにご飯を持って来ながら、ひまわりは呟く。

「……ちょっと、な。働く部署が変わったんだ」

「そうなんだ……なんか、毎日クタクタになってるね」

「まあ、慣れるまでは時間かかるかな……」

ご飯は、ひまわりが作っている。と言っても、冷凍食品が主ではあるが。
それでも作ってくれるだけありがたい。ご飯は水が少なくて固いが、それでも暖かい。

ひまわりに悟られないように、スーツで出勤する。そして仕事場で作業着に着替えるという毎日だ。
はじめ工場長も不思議がっていたが、密かに事情を説明すると、それ以降は何も言わなくなった。

仕事は、かなり労力を使う。
単純な作業ではあるが、一日中立ちっぱなしだ。そこそこパソコンを使えるが、使う機会はほぼない。
流れ作業であるために、オラが遅れれば、後の作業に影響が出る。だから一切気が抜けない。
慣れない作業に、肉体と精神力を酷使し続ける日々は、とてもキツかった。

それでも、今は働くしかない。

休日のある日の朝、オラは目を覚ました。
日頃の疲れからか、体中が痛い。それでも起きて家事をしなければならない。

……だがここで、オラはある匂いに気が付いた。

(この匂いは……味噌汁?)

どこか、懐かしい香りだった。
フラフラした足取りで台所へ行ってみると、そこには鼻歌交じりに料理をするひまわりの姿があった。

「――うん?あ、お兄ちゃん、寝てていいよ」

ひまわりはオラに気付くなり、笑顔でそう言う。

「……お前、味噌汁作れたんだな……」

「し、失礼ね!ちゃんとお母さんから教えてもらってたんですー!」

「母ちゃんから……知らなかったな……」

オラがそう言うと、ひまわりは急に表情を伏せ、寂しそうに呟いた。

「……思い出しちゃうんだ。これ作ってると。――お母さんと、話しながら作ってた時のことを……。だから、いつもは作らないの」

「ひまわり……」

少しの間黙り込んだひまわりは、急に声のトーンを上げた。

「――だから、特別なんだよ?ありがたく思ってよね、お兄ちゃん」

はち切れんばかりの笑顔で、ひまわりはオラの方を見た。
それは、ひまわりなりの誤魔化しなのかもしれない。オラが心配しないための。自分の中の悲しみを大きくしないための。

ひまわりにとっての母ちゃんとの思い出は、暖かいものであると同時に、悲しみの対象でもある。味噌汁を作るということは、その両方を思い出させることになるだろう。
……それでも、彼女はオラのために作ってくれた。だからオラは、それに対して何も言うべきではないんだろうな。

「……いただくよ、味噌汁」

「……うん!」

そしてオラとひまわりは朝食を食べた。
味噌汁は、少し塩辛かった。でも、とても心に沁みた。

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