体寄せてきて。俺の手捕まえて。腕くぐって。胸に顔乗っけられて、思わず肩、腕で包んで。
久しぶりに彼女の髪の匂い感じる距離。こっそり髪に鼻寄せて、吸い込んで。
それで落ち着いてたら、不意に腰触られて。くすぐったくて。思わず体よじった。
「痩せちゃいましたね。」「戻さないと。」頷く彼女に流れで「肉喰っていい?」聞いたら、
「あは。治ってからですよ。」キッパリ言われて。これはもう駄目だと思った。
けどやっぱりガッチリ見張られてるとちょっとイラッと来て。でも直には言えず。
「きつすぎだよ」だったか「やりすぎだよ」だったか、背中に小声で言ったら、聞こえてて。
振り返って。視線落として。でもすぐ俺見上げて、薄く笑って。言葉、絞り出して。
「お、お医者さんの言う事聞かないでお母さんみたいになったらやだもん。」
斬りつけるような言葉で。何食いたいとかそんな事は、口が裂けても言えなくなった。
お婆さんは痩せたままの俺見て「全然食べんのもええ事ないんやない?」って心配してくれて。
「ごめんね、言い出したら聞かんのは母親似やからね。」そう言って目、細めて。
だんだん彼女がお母さんに似てきたのを喜んでて。お母さんがどんな人なのか、
俺はあまり知れなかった。けど彼女見てると、意思の強い人だったんだろうなと。そう思った。
退院して四日目か五日目が土曜で。昼前に親父が来てくれて。当然、彼女も居る時で。