「お、お、おにーちゃんなら、ちょっとなら、許して、くれる、かな、って。」
やっと、声あげて泣いた。泣いてくれた。これで俺も泣いていいと思った。
結局俺のした事は、一緒に泣いた事。それだけ。情けなかった。
あの時以来、「お兄ちゃん」と呼ばれるようになった。
それまでは名字にさん付け。それがいきなり。
兄弟いないから呼ばれたこと無いし、相手は女の子だしで、気恥ずかしくて。
やめてと言った事もあったけど「ダメですか?」と言われると、ダメとは言えなくて。
お婆さんに言わせると「甘えたかろうから」と、そう言う事らしかった。
お婆さんは葬式以来、俺らに全く弱み見せなくてなって。何か気が張った感じで。
家の事を彼女にさせずに、全部自分がやるようになって、手伝おうとすると、追い払う。
内職まで始めて。組み立てとか、細かな手仕事。俺や彼女が手を出すと、怒る。
今思えば、一日中動いてる事で、あれこれ考える時間を減らしてたんだと思う。
平日は学校のあと、土日はバイトから帰って一息した頃に、必ず彼女がドア叩く。
話してたり、本読んでたり、たまにゲームしたり、やってる事は同じ。
ただ、時々ちょっと沈んだ感じで。言葉少なくなって。妙に距離が近くて。
やたらくっついてきたり、服とか腕とか持ったり掴まって離れなくなったり。
目が潤み始めたりすると、俺までそうなって。二人で我慢したり。しきれなかったり。
単に甘えてるだけって時もあって、くっついたり触れたりで俺の反応見てる感じで。
まぁいいかと言う感じで許してたら突然、膝に乗っかられた。かなり慌てた。
「こら。」「ちょっとだけ。」ちっちゃくて肉の薄い彼女。軽さに驚いた。
俺の胸に背中くっつけて。身体預けて。ぽつりと言った。
「…お父さんみたい。」「どういう意味?」つい、聞いた。
間を置いて「こんな感じだったのかなって思うんです。」そう答えて、微笑んで。
彼女にはお父さんの記憶が無い。言葉に詰まって。頭撫でて、ごまかした。
「あは。多分、こんな感じです。」くすぐったそうにしながらそう言った。
彼女はこの事もお婆さんに話していた。からかわれて、ちょっと困った。
夏休みに入ってからは俺はバイト。彼女はお婆さんの許しを得て内職の手伝い。
友達とかおかんとか、地元帰って来いと言う誘いもあったけど、帰らなかった。
彼女とお婆さんと、気になってしょうがなくて。
暑い盛りに、お母さんの四十九日。納骨に行く事になった。アパートから車で一時間半くらい。