時間かけて彼女が選んだのは普通の小さなマンション。いつも目にしてた建物だった。
部屋見たら小綺麗で。南向きで明るくて。家賃はちょっと高めだったけど、すぐ決めた。
またバイト先でトラック借りて引っ越し。本以外の家財道具は増えてなかったから一度で済んだ。
市営に近くなって徒歩で数分。お婆さんも心強いと言ってくれたし、良い選択だったと思う。
行き来が楽だから夜もギリギリまで居るし、一端風呂入りに帰ってまた来たりで。
お婆さんも一緒に食事するようになったけど「ここは寝るだけかね。」そんな事言って笑って。
「同棲の為の引っ越し?」一人暮らしには広いからか、部屋見に来た連中に言われて、
毎日家に帰ってるから同棲じゃないけど一緒にいる時間長いから半同棲。勝手にそんな判定をされた。
もう一緒にいる事が普通だったから、誰がどう言おうと、どうでも良かった。
正式に採用決まって。新年度からの勤務も決まって。俺の配属された場所は高齢者棟。
仕事始めまで少し日数があったから、ギリギリまでバイトは続けさせて貰って。
最終日に送別会やって貰って。社長さんからは就職祝いまで貰って。気持ちよく送りだして貰った。
四月の頭からは病院での勤務。その職場は女性の方が圧倒的に多くて。体力腕力期待されて。
殆どリフト扱い。でもバイトで担いでた物よりは軽くて。体力的なきつさは全く無くて。
休みは不定期になったけど夜勤がある分休日の日数自体は多くて、自由になる時間も増えて。
けど何もしなくていい日と言うのが学生の時は殆ど無かったから、ちょっと暇を持て余した。
彼女は中三。進路の問題が再燃した。俺もお婆さんも彼女の説得はもう諦めてて。
彼女が就職したらできる限りの事はする。もうその位しか考えられなかったけど、
親父に「楽観的すぎる」と切り捨てられて。説得出来ないと言ったら、暫くぶりに怒鳴られた。